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職場に着くと、秘書の倉田芳佳 (くらた よしか)が、朝の確認に来る。
「おはようございます。本日のスケジュールを確認させて頂きます。
高橋が今日より新しいシステムを構築するチームに入ります。
秘書室長には今川が入りますので、伝える様に言われました。」
水菜より5ヶ月先に子供を産んだ梨香は、すでに産休を終えて復帰している。
15時まで働いているが、秘書のまとめ役という立場で、副社長の秘書には新しい男性の若い子が付いている。
副社長で梨香の夫の立花 幸人(たちばな ゆきと)は、営業中心で外に出る事が多いので、付いて回る秘書は男性の方がいいと判断した。
「分かった。会議は午後一だな。時間前に教えてくれる?内線通話鳴らしてくれたらいいから。」
「分かりました。失礼します。」
カタカタとキーボードを鳴らす。
新しいゲームはまだ開発途中。
一年かかるのも珍しくはない。
(空がゲーム出来るようになるまでに出来るといいなぁ…。)
そんな事を考えていると社長室のドアがノックされた。
「はい?」
「失礼します。」
「社長?これ……水菜ですよね?」
梨香の手に見たことのない雑誌。
「なんだ?」
雑誌の向きを変えてテーブルに置かれると、そこには空を抱いた水菜の写真。
「はぁ?なんだよこれ!」
「街で見かけたセレブな奥様、というタイトルの記事で、乗っているのは水菜だけではないですし、本当にセレブと考えて載せている訳ではないそうです。
お洒落な奥様を写真に撮って掲載しただけ…と。」
「いや…でも、水菜がこれ、オッケーしたっていう事か?」
「白黒で画質が悪いので顔も分かり難いですが、ここの出版社に聞いたところ、通りすがりで何人も写真を撮っていて、数名、連絡先を聞かないままだった人がいたとかで、水菜も…掲載に当たり許可は取ってないと。
はっきり顔は分からないし注意はしましたが、広報の方に対応を任せてもいいですか?」
「うん……。あんまりおおごとにしない方がいいな。勝手に載せたのは厳重に注意して、謝罪してもらって。あと、その後の個人情報漏らさない様に。
それが守られれば、まぁ…よく見ないと分からないし……いいだろう。
社長夫人て言うの、絶対、漏らさないって念書くらい書かせろ!
これで空が誘拐されたらどうするんだよ?でも、水菜可愛い……。
な?梨香、空とセットだと驚きの可愛さだろ?」
「コマーシャルの驚きの白さだろ?みたいに言われても困ります。」
梨香は淡々と返事をして部屋から出て行った。
鼻歌を呟きながら真は雑誌を切り抜く。
(ラミネートしてモニターに貼ろう!)
その努力も残り数日、僅かな楽しみで終わる事になる。
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