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時間も時間なので、受付は当然いなくて、エタエモの入り口もしっかりロックされていた。
解錠して、自動ドアを開けた。
中に入り、もう一度ロックして、ベビーカーを押して廊下を静かに進んだ。
フロアに顔を出すと、SEの屍、みたいな人が数人目に飛び込んだ。
「石原さん?どうされたんですか?こんな時間に…。」
高橋に声を掛けられて、水菜は紙袋を上にあげ、小さな声で答えた。
「差し入れ。皆さんお夕飯は?おにぎりとおかずを少しお持ちしました。」
「ああ〜〜!嬉しい!!やっと、終わったんですぅ……。」
屍が起きて来て、紙袋を持って行った。
「俺はもう少しです〜!休憩してもいいですかぁ。」
「どうぞ……。おにぎり、一人2個ありますから。梅と昆布です。嫌いな人は……。」
「いないみたいですね?社長はもう自分のパソコン始めてます。どうぞ、行ってください。」
高橋に言われて、みんなに声をかけて社長室に向かう。
秘書室のドアから入り、ベビーカーをそこに置いて空を負んぶした。
静かに階段を上る。
いつかの様に階段に座り、頭だけを出す。
「だ!」
「しーっ…。」
空に言い、そっと見る。
疑うわけではないがなんだか最近、真の様子がおかしい気がしていた。
急に実家に行こうと言うし、あまり空の家での様子も聞かなくなっていて、会社から帰る時も、空頼むなと言わなくなった。
(私には空と一緒にいたくないの?て聞いておいて、なんか変……。)
しばらくカタカタと音がして、
「おし!これオッケー!あと一つだな。」
真の声が聞こえた。
「ちょっと休憩しようかなぁ?俺には愛が必要なんだ。」
休憩と聴こえて出ようとしたが、その後の言葉で水菜は固まった。
(……愛?休憩の愛?え?セフレ?どうしよう……真がセフレに電話したら…
女性が来たら…どうしよう?いや、私はどうなるのだろう?)
泣きそうになるのを耐えた。
私には今、背中に空がいる。
泣いている場合じゃない。
カタカタと音がする。
「あれ?いない……。何処行ったんだ?梨香の家かな?こんな時間に外出じゃないよな?浮気?まさかね?空の顔見たかったのになぁ…。まさか、空連れて浮気?こんな時間に、空寝てるだろ?駄目だろ!連れ歩いたら!!」
(ん?空連れて浮気?私の事?)
出るタイミングに困っていたらポケットのスマホが振動した。
マナーモードだったがその振動音は響いた。
着信は真からで、気が付けば階段のすぐ上に真が来ていた。
「何……してる?」
「えっと……差し入れ…持って来たんだけど……いらないかな?」
「いる!!ほら、水菜。」
手を出されて真の手を取り、ソファまで誘導された。
真が手を貸してくれて、空を引き取ってくれる。
「空〜。よく来たねぇ。ねんねだねぇ?ここで寝ようねぇ?」
と、ソファに寝かせる。
「ねぇ、真…。さっき…何してたの?」
「えっ?さっき?」
急に挙動不審になった。
「俺には愛が必要ってなに?」
「え?言ったかな?」
「言ってた…。セフレに電話するのかと思ったもの。」
「しないよ!絶対!しない!ていうか、いない!」
「じゃあ……必要な愛って何?」
真はソファに寝かせた空をじっと見る。
無言だ…。
水菜はそれを見て、走って社長室にある机に向かう。
「水菜!待て!」
椅子に座り、真が見ていた画面を見る。
ちょっとマウスを動かすとそれが画面に出た。
「辞めてぇ…。」
止めたいけど、ソファで寝ている空から離れると、寝返りで落ちそうだから、真はそこから動けない。
しかも、空は寝ているから大きな声も出せない。
真の声は虚しく響いた。
それを見た瞬間、水菜の声が小さく響いた。
「……仕事して!!」
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