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「おかえりなさい!石原さん。」
職場フロアに顔を出すと、すぐに高橋に声をかけられた。
「高橋さん。念願のシステムチームだそうですね?おめでとうございます。
休職中はご迷惑をお掛けしました。」
水菜も久し振りの職場に緊張しながらも、嬉しく思い返事をした。
保育室は受付入り口の入ってすぐの会議室を改装した。
可愛い子供の部屋になっている。
ふた部屋の続き間で、隣はベビーベッドのおやすみスペースだ。
真はまだそこにいて、水菜は保育士に挨拶をして先に職場に顔を出した。
真はしばらく動きそうもないからだった。
秘書室は「秘書課」へと名前を変えて、今川 梨香を秘書室長とし休みを取るときの交代やシフトを梨香が管理している。
秘書は全員で4人。
それぞれに二人で付いて、メインとフォローに回っている。
水菜は今日から社長秘書のフォローとして入る。
メイン秘書、いわゆる第一秘書は後輩だが倉田になる。
時短で15時には帰宅するし、子供が病気にでもなれば仕事どころでもない。正社員といえどやはりバリバリ働けない以上は、肩身が狭いのも仕方がない。
「あ、石原さん、お久し振りです。僕の事……。」
秘書室から出て来た、高橋と比べれば小柄だが、170センチ位のまだ学生風の青年が水菜に恥ずかしそうに声を掛けた。
「覚えてますよ?私が面接しましたから。ふふ…頑張ってますね?
林田さん。林田 栄達(はやしだ えいたつ)さんですよね?慣れましたか?」
水菜が握手を求めて言うと、両手でその手を取る。
「ありがとうございます。覚えてて戴いて光栄です。ご一緒する機会がないまま産休に入られてしまったので、これからよろしくお願いします。」
「こちらこそ。でも林田さんは副社長に付いて行かれることが多いから、外回り大変ですね。」
「いや、副社長は優しいですし、勉強になります。それよりも会議で時々、お会いする社長が怖くて…。石原さんは会議は出ますよね?これからは…。」
手を握られたまま言われ、少し表情が固まった。
「会議…は、どうかな?新人みたいなものですから…。」
手を少しずつ動かしてみる。
「おい!何だこの手!これ!これだ!」
後ろから真の手が伸びて、バシバシと林田の手を叩く。
内心、水菜はほっとする。
「いいか、林田!握手は2秒だ!救命処置に限り触ることは許可する。
笑顔を見ていいのは3秒だ!うちの秘書課の決まりだ!」
真は言い捨てて、水菜の手を引いて階段を上り、社長室に入った。
「まったく…油断も隙もない。」
ドカッと社長の椅子に座る。
くすくすと笑いながらも、助けられたと、水菜は感謝する。
男性は未だ少し苦手だ。
「後で倉田と一緒に参ります。確認する事もありますので…。」
会釈をして水菜は秘書室への階段を降りていく。
ヒラヒラッとしたスカートの薄いブルーのワンピース。
上着も短めのボレロ風で、縁取りが濃いめの水色。
真が新婚旅行で水菜に買ったブランド物だ。
(やっと着てくれた。子供産む前に買ったけど、似合ってる。うん、いい!)
満足しながら、久し振りに水菜を見送った。
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