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「仕事、まだ休んでもいいんだぞ?」
エレベーターの中で会社に着く前にもう一度聞かれる。
「うん、でも外周りじゃないし、ヒールは履いてないし時短だし…恵まれていると思うの。子育て経験豊富な先輩方もいるしね?
真とお酒飲んでたでしょ?」
「うん…。あれ、大丈夫だったんだろ?」
真は急に心配になる。
8月終わり、送られて来たお酒を二人で晩酌する日々だった。
多分その頃、水菜のお腹にはもう子供がいた事になる。
「うん、本当に初期の事になるから。アルコールがそこで駄目なら今頃もう流れているって。でもね、知らないとはいえお酒飲んで駄目だなぁって思って。でも同時にね?暑いから楽だし、って倉田さんとナース靴っていうの?あれに室内は履き替えてたでしょ?ヒールで歩くより負担が少ないらしいの。浮気騒動がなければまだ気付かないでいたかも知れないし、そう考えるとね?先生が言われる様に良い偶然が重なったのかな?って。
でも、もう絶対!苦しめたくないから気をつける!」
「休むって事?」
「無理せず働いて、具合が悪い時は真の部屋に寝に行くわ。」
笑いながら水菜が言う。
「社長室に寝に来る秘書かぁ…。それは珍しくてエタエモらしくて良いですねぇ。」
と笑いながら真も返した。
「梨香は……本来の仕事に戻ったのよね?」
エレベーターが着く前に水菜は聞いた。
「戻ったよ。」
上を向きながら真は答えた。
「戻ったけど、林田次第ではどうかな?この間、ちょっときつい言い方をしてね?林田にはその後で、営業がいいなら移っていいと話したんだ。
その答えが今日、出る。」
「え?林田さんて営業希望だったの?」
水菜が聞くと同時に到着を知らせる音が鳴る。
「いや。元々は、IT企業に興味のある学生。何がしたいか、出来るかはまだ未知数のね?希望に添えればと思ってる。幸人にはいい秘書で、勿体無い気もするけどな…よっ、と!」
ベビーカーをエレベーターから降ろして、真は心配するなと付け足した。
「仕事してたらあれがいいとか、あんな事したいとか思って当然だろ?
林田みたいに向上心があればなおの事な?いいと思うよ?考えて希望の部署に異動出来る。うちならではの強みだろ?」
挨拶をして託児所スペースの前まで来る。
ベビーカーから空を降ろして、慣れた手つきで真は保育士さんに引継ぎをする。
水菜は黙ってそれを見ていた。
「大したものね?経った1週間で…人間て、成長するのね?」
「どういう意味かな?」
「そういう意味よ?深い意味はないわ?」
二人で並んで歩いて、くすくすと笑う。
「悩んでも仕方ないのよね?子供は産みたいし、空は可愛い。
仕事はしたい、例え忙しくなる事が分かっていても…。
欲張るのだから頑張らないとね……。」
「悩んでたの?仕事の方だよね?」
「そうよ?器用じゃないし、いっぱいいっぱいになるから…。この1週間、凄く穏やかで暖かで幸せだったから、余計にね。
楽な方を人は取りたがるわね?」
「うん、それは普通。でも、慣れただろ、俺……。
協力する。空の時よりもっと!頑張らないでいい。
一緒にゆっくり、子供を見ていこう?」
「一緒に?」
「一緒に……。」
手を繋いだ。
暖かい物が流れては入って来る気がした。
(これが愛情パワー…。)
真は考えて幸せを実感していた。
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