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11月の林田の答えは秘書課に残ると言う返事だった。
「僕は副社長と共に仕事がしたいのです。」
はっきりと社長に面と向かい言い切ったが、月に2度、必ずある全体会議ではビクビクしながら社長の顔を見る。
その会議には秘書課も全員が、社長、副社長、それぞれの課の課長が座る。
林田達、秘書は後ろに控える様にそっと座る。
副社長の秘書として後ろに控える林田と社長の距離は近い。
林田に幸いなのは、横に倉田と石原が居て、逆側に今川が座っている事だ。
高橋は年明けからは正式にシステムチームに異動が決まっていた。
会議資料を秘書課が事前に机の上に置いて、追加分を今川が配る。
「追加分は先程、エイブさんより、事前調査の見込みで頂いた売り上げ目標の数値と、発売日までの広報活動の決定している内容です。」
配り終えると椅子に戻り、後ろに座るそれぞれのチームの部下にも資料が回される。
「広告料はうちとエイブ、半々だったよな?」
「そうだよ。不満か?」
「こんな広告、面白くないと思わないか?コマーシャル流せとは言わないけど、IT企業がネットで流す広告がこれ…つまんないだろ?」
バサッと机の上に資料を置いて、真は不機嫌な顔をする。
「広報!ネットに流す広告はこれで決定ですか?」
副社長の幸人は大きな声で聞く。
「はい!決定ですが改善は可能です。それは年明けから流しますので時間はあります。ただ…費用は掛かります。」
「どれ位?」
「それは…新しく作ってみないと分かりません…。」
「新しいのが面白くなかったら?さらに次は作る時間があるのか?」
「つ、次を必ず面白い物にします……。」
「費用は?何処まで出せる?誰が最初にこのネット広告決めた?
幸人は見たのか?」
「いや、今、この資料で初めてだ。」
(嫌な流れ……。)
林田は後ろに座り思っていた。
気に入らない広告、副社長にそれを確認させる。
社長自身、手を放した時点で事前確認しないのに、作り終わってから文句を言う。
(初めから自分で全部見て作ればいい…。)
そんな風に林田は考えていた。
「副社長としてはどう思うんだ?この広告。」
「俺は有りだ。面白くないかもしれないが、目は引く。子供にも分かりやすい。」
「子供がネット広告を見るならな?」
「す、すぐに作り直します。それを見て頂いて……。」
「ちょっと待って!作り直すのは良いけど、せっかく作ったこれはどうする?
お金は掛かってるんだ。無駄には出来ない。」
副社長が広報担当に声を上げる。
会議はシン…と静まり返った。
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