有難み

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「水菜〜。具合どう?」 10時半を過ぎた頃、梨香が病室に訪れた。 豪華ではないが普通の一人部屋に水菜はいた。 「梨香…わざわざ来てくれたの?ごめんね?急に仕事を休んで…。」 「水菜、倉田さんをしっかり育てたわね?仕事面では信頼出来るし、突然の対応も任せられそう。私が引退しても林田を抑えてくれるわ。」 と、梨香は笑った。 林田は秘書として一番若く、期間も短い。 副社長付きとして外回りが多いからか、他の秘書とは会話の機会は少ない。 すっかり副社長付きが定着して秘書連携など全くなく、当然、エイブの受付と会っていた情報も入らない。 仕事であれば報告の一つとして入るはずだ。 だから梨香は、ずっと疑っていたわけだ。 「でも…何ヶ月?1ヶ月位?まったく気付かずでしょ?普通、気付くからね?」 呆れた顔で、それでも笑顔で梨香は言った。 「それが……そろそろ3ヶ月入るって…。」 「嘘でしょ?全然、気付いてなかったの?」 「うん。面目無い。少し太ったかなとは思っていて、体重はそれ程変わった気はしなかったんだけど、1キロを行ったり来たりでね? お肉のつき方が…パンパンになってる気がして、ダイエットしてたくらいで。注意された。」 「お腹の子、大丈夫?」 「診察はここに来てすぐにしてもらった。今のところは大丈夫。検査はこれからしてそれで入院期間を決めるって。それでも食事をしっかり食べて貧血を改善しないといけないから、最低でも1週間は入院です。」 「あんな事あって……余計ひどくなったんじゃないの?まったく!男なんてどいつもこいつも…。」 思い出して腹を立てながら梨香は鞄からお土産を出した。 「本と塗り絵。意外に楽しいの。これ、色鉛筆。」 「ありがとう。退屈だから嬉しいわ。……ねぇ、梨香?聞いていい?」 遠慮して、水菜は梨香の顔を見た。 「ん?どうしたの?何でも聞いて?」 笑顔で梨香は答えた。 「男なんてどいつもこいつもって……。立花さん、どうだった? 本当は話したくて来たんじゃないの?」 優しい声で水菜が聞くと、梨香は今までと違い暗い顔になった。 「妊婦さんに聞かせるのも…どうかと思うのよ?」 「いいわよ?付き合い長いでしょ?真の時もいつでも味方でいてくれる。 私も梨香の味方でいたい。何でも聞きたいわ?」 それを聞くと、梨香は水菜のベッドに頭を乗せた。 「絶対!浮気してる!真と違って学生時代も女の子が寄って来ても興味なしって感じで、浮気なんか縁がないと思ってた。 なのに2週間も前にエイブに行き出した頃から受付の子とお茶してる。営業担当者の女性ならまだ理解できる。 受付……わざわざ休憩を待って?仕事終わりを待って? 待ってまでお茶って絶対、何かあるでしょ?」 「う〜ん……。事情があったか、興味が湧いたかの二択?」 「事情って…。受付とどんな事情があるの?」 「そうねぇ……。」 黙り込んで考え始めた。 数分して、頭に不意に浮かんだ考えを青い顔で梨香に呟いた。 「……副社長が…立花さんが今まで守って来たのって、梨香と、真とエタエモ。女性なら……真?」 「え?真の浮気相手と話を付けてたって言うの?」 「考えたくないけど、立花さんが浮気って…私の中ではないの。 分からないけど……分からないけど!でも…。」 「……ごめん!水菜、もう考えるのやめよう?ちゃんとはぐらかさないで話してもらえるように聞いてみる。うちの疑惑に真を巻き込んでごめん! 真の疑惑は晴れたからね?ね、大丈夫よ?」 さっきとは立場が逆になり、水菜は申し訳なく、 「梨香…落ち着いて話してね?きっと何でもないわ。そうでしょ?」 と、笑顔で梨香に言った。 梨香もそうねと答えて、それを聞いてから水菜はお願い事を梨香に話した。
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