勇者様の助けなんていりません!

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魔王にさらわれたお姫様が勇者の助けを待つ。 なんて子供向けのおとぎ話みたいな状況に陥ってしまった。 勇者っていつくるの?どこからくるの?何人?何歳?身分は?なんてことを考え始めると止まらなくなり、不安になった。 三十年後とかだったらどうしよう?敵国の人間だったら困る!お爺ちゃんでも嫌だし盗賊だったら死んだほうがマシだわ。 そうやって不安と恐怖に苛まれ、怯える私のところへ魔王は度々訪れた。 魔王は長い黒髪に夜空の瞳をした男で渦を巻いた角が二本、生えている。見た目だけで言えば美しいのだが、どこか恐ろしか感じるのは彼が人ではないからだろう。 ひんやりとした指先で私の顎を持ち上げ、目を細めて彼が口を開く。 「人間と魔族でなければ……」 彼はそう切なそうに呟くのだ。 これはだめだ。 ストックホルム症候群ってやつだ。 もしかして彼も辛いのかも?そんなに酷い魔王じゃないのかも?私が支えてあげなきゃ、理解してあげなきゃ……なんて考えたら人類滅びる。まず先にうちの国が滅びると思う。 だいたい、冷静に考えると全く好みじゃない。もっと健康的ではつらつとしていて、かつ真面目で堅実な人がいい。だから勇者も当てはまらない。 これはいよいよ自ら脱出を試みるしかないのではないか。 いやいや、そんなの、無理。 私、一人で散歩すらしたことないのに。 転機は思いがけず、訪れるものだ。 ある日、私の食事を運んできたのがスライムだった。 いつもはオークやガーゴイルなんかが武器を腰に携えて運んでくるのに、その日は丸腰のぷよぷよしたスライムが運んできたのだ。 「……あなた、初めまして?」 私がそう声をかけるとスライムは困ったようにこちらを見た。気がした。 スライムなんてどこが正面なのかすらよくわからない。感情を読み取るのはさらに難しい。 けれど、このスライムはどうしていいかわからずに困ってるように見えた。 魔王の城に来て日も浅いんだろう。 だと言うのに囚われの姫の世話を頼まれてどうしたものかと頭を悩ませているに違いない。 なんとなく、なんとなく、この子は悪い子ではないと思った。 「ねぇ、私とここから逃げだしてみない?」 今となってはどうしてそんなことが言えたのか、わからない。
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