第百四十一話 エドソンと孤児院

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第百四十一話 エドソンと孤児院

「わーエドソンだ~」 「オーナーさんだー」 「エドくんだ~」  孤児院に着くと、子どもたちがやってきて思い思いの呼び方を見せた。    しかし、オーナー呼びはともかく、他は何かまるで子供扱い受けているような気になってしまう。  気のせいだとは思うがな。 「エドソンくんだ~昨日はありがとうね~」  そして相変わらずどこかゆったりとした口調で話しかけてきたのはスロウだった。 「あぁ、しかしこの時間にここにいるってことは……」 「スロウはギルドを辞めたのよ。私と一緒にね」    するとスロウの背後からひょこっと小柄な女が姿を見せた。こいつ、スロウを心配してギルドにやってきた受付嬢か。 「本当に辞められたのですね」  メイが受付嬢、今はもう元受付嬢か。その子に声を掛けるとコクコクと顎を上下させて答える。 「スロウから話を聞いてね。私ももう居られないなって思ったの。大体あんなドイルみたいな脂ぎった親父とどうにかなるなんて考えられないし。ギルドにはそれでも欲に目がくらんであいつに抱かれたってのがいるみたいだけど、本当信じられないと思わない? あ、スロウの心配はいらないよ。私が知り合いに言って辞めるのも直接ドルベルとは話させないようにしたからさ。でも本当勢いだけで私まで辞めちゃったけどこれからどうしようかって話でさ。あんた昨日雇ってくれると言っていたよね? 安い給金だって言っていたけど実際どんな感じなの? あ、そうそう私はクイックっていうの宜しくね。なにはともあれスロウが無事で本当に」 「ちょっと待てーーーーーー!」 「え? 何?」  女が目をパチクリさせた。え~と今の話の中でクイックと名乗っていたか?    改めて見るとショートカットでボーイッシュな雰囲気のある女だが、いきなり早口でまくし立てるように言ってきたぞ。昨日はこっちも急いでいたから気にしなかったが改めて聞くと凄く煩わしい。 「クイック様。可能ならもう少し話を簡潔にまとめて貰えると」 「給金幾ら?」 「いきなり簡潔すぎだろうお前は」  クイックが物欲しそうに指を加えながら直球で来た。いや確かに雇うと言ったがな。  ふぅ、まぁギルドも色々と忙しくなってきたしな。 「言っておくが出せるのはこんなもんだぞ」 「こんなに!?」  私が金額を提示するとクイックの目が¥になった気がする。なんだ? そこまでの金額か? 「本当にこんなにいいの? これまでより三倍ぐらいになるんだけどさ!」 「そんなにか!? 一体これまでどんだけ安い給金だったんだ……」 「言われてみれば結構ギリギリだった気がするかも! でも結構余裕のある子もいたような? あ、そういう子は大体ドルドと何かあった子かもしれないよ!」  そういうことか。随分とわかりやすいな。  しかし、やっぱしゃべるの早いなこいつは。 「スロウも同じぐらいになるがいいか?」 「えぇ~私も~いいのですかぁ?」 「一抹の不安はあるがな……ただ、接客は何とか行けるだろう。行けるよな?」 「彼女みたいなタイプを好むお客様はいると思います。必要なら私も教えますので」  メイの指導があるなら問題ないか。あのアレクトでさえメイのおかげでかなりマシになったからな。 「雇用についてはいいとして、後はこの孤児院だな」 「あの、何か色々とうちの子達がお世話になったみたいで、ありがとうございます。ご挨拶が遅れてしまいましたが、私ここで院長をやっておりますダリアと申します」  私が聞こうと思ったタイミングで院長がやってきて挨拶をしてくれた。しかし……美人だな。シスターの格好でも目に見えてわかるほど大きいし。 「……御主人様。鼻の下が……」 「の、伸びてない!」  メイがジト目を向けてきていた。ちょ、ちょっと怖い。 「こほん。スロウに関しては安心して下さい。魔導ギルドで雇用することに決定したので仕事はなくなりませんよ」 「まぁ! 聞くところによると子どもたちが太陽のこまち亭でお手伝い出来ているのも貴方様のおかげとか。何から何まで本当にありがとうございます」  ダリアが深々と頭を下げてお礼を言ってきた。物腰が柔らかく、頭を上げた後に見せた表情も慈しみの感じられる物だ。    ひと目見ただけで心清らかなシスターだということがわかる。子どもたちに慕われるのもわかるというものだ。 「お礼はいい。それよりも今回お伺いしたいのは、この孤児院が抱えている借金のことだ。聞くところに寄ると相当な金額らしいが」 「……はい。確かにそのとおりでございます。利息も膨れ上がっておりまして……」  ダリアが目を伏せる。変化した表情からは心労が耐えない様子が感じられた。 「宜しければお話を詳しく聞かせて頂けますか? 御主人様であれば何かの手助けになれるかもしれません」 「しかし、ただでさえお世話になっているのにこれ以上は……」 「気にしなくていい。それに宿の件は寧ろ私が世話になっているほうだ。子どもたちは宿泊客にも評判がいいと聞いているしな」 「本当によくやってくれているのですよ」 「まぁ。そう言って頂けると嬉しい限りです」    ダリアが笑みをこぼした。子どもたちが褒められたことが自分のことのように嬉しいのだろう。 「そういうことですからお話を……」 「何だ? 妙なメイドと子どもが嫌がるな。おいおいまさか借金も貸せない分際で新しい孤児でも拾ってきたのか? 全く随分と余裕じゃないか。マザー・ダリア――」 「ドラムス様……」  その時妙に鼻につく声が耳に届く。孤児院の入り口に立っている男の声のようだが、ダリアの反応を見るにさてはこいつか……借金を背負わせているのは―― お知らせ 好評配信中の本作のコミカライズ版ですがBookLive版以外でも配信が開始されています。1話無料のキャンペーンを行っているところもあるようですのでBookLiveを利用してなかったな~という方もこの機会にでも読んで頂けたなら嬉しく思います!
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