第二十一話 リベンジ

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第二十一話 リベンジ

 交渉はそれほど時間も掛かることなく終わった。その程度なら今の部屋を常にあけておきますとも言ってくれた。  なので2人には私の魔導具を見せておく。特にキャロルには幻覚魔法ということにしたままだったので今度は正直に話した。 「そう、ここなの! 私が見たの」 「ふぇ~これは凄いですねぇ」  壁に設けられた扉を開けると広がっているのは別世界だ。どこの城なの? と漏らしながら、豪華すぎる、と2人は溜息をもらしていた。  ふむ、そんなに言うほどだろうか? それに次元に干渉して新しい部屋を創るなどは魔導具の技術の中ではそこまで難しいと思えない。  やはり、多くの魔導技術は大きな都市にのみ伝わっているのかもしれない。  そもそも魔導ギルドの扱いがあまりに悪すぎる。都市だとどうかは判らないが、冒険者ギルドに主導権を取られすぎだろう。  そのせいで魔導具の技術が古いまま停滞してしまっているのかもしれない。そう考えたらこれは由々しき問題だ。 「やっぱりまた明日にでも魔導ギルドに顔を出してみるかな……」 「え? ま、魔導ギルドですか?」  なんとなく呟いた言葉に、キャロルが反応を見せた。表情が若干こわばっている。 「何か知っているのか?」 「え~と、知ってるけど、あまりいい噂は聞かないの」  いい噂は聞かないか。冒険者ギルドに魔導具の管理権まで奪われた程だ。何かしら言われることもあるのだろう。 「それに、魔導ギルドにはもう殆ど魔術師や魔導師がいないと聞くの」 「まぁ、たしかにな」  一度行ったからなんとなく判る。唯一メガネの女魔術師だけいたようだが。 「確か、今優秀な魔法の使い手も含めて全て冒険者ギルドに移ってるのですよね」 「う~ん、本当に何でもかんでも冒険者ギルドなのだな。そんなに皆、冒険者ギルドがいいのか?」 「「…………」」  うん? 何か2人とも黙ってしまったな。 「何か冒険者に関してあるのでしょうか?」  メイが尋ねる。すると2人は顔を見合わせ。 「その、確かに今ほとんどのことは冒険者ギルドによって賄わてますが、やりすぎというか、なんでもかんでも冒険者がやってしまうんですよね」 「宿のお客さんにも冒険者に不満を漏らしていたのがいたの。そこにたまたま泊まっていた冒険者がいて喧嘩になってしまったことも……」  なるほど。冒険者には荒くれ者も多い。だからこそ、手を広げすぎるとトラブルの元になることも多々にある。私は以前からそれを危惧していたがどうやら間違っていなかったようだ。 「それに冒険者ギルドのおかげで本来の仕事を失った人もいます。大工なども今は冒険者が棟梁みたいなことをやってますからね」  そこまでか。やはり特定のギルドが権力を持ちすぎるとろくな事にならないな。  だが、この町の建築レベルが低いのにも納得がいった。  冒険者ギルドが主導権を握っていては成長など見込めないだろう。もともと畑違いなのだから。 「話は大体判った。ありがとう」 「エドソン様も冒険者になるのですか?」 「私が? まさか」  それははっきりと否定した。あんな礼儀のなってないギルドに誰が協力するものか。 「最初に言った通り、私は魔導ギルドに行くよ。本来の役目を思い出させるためにもな」  私の言っている意味は2人には理解出来なかったようだが、まぁそれはそれだ。私としては拠点となる部屋が手に入っただけでも収穫はあったと言えるだろう。 ◇◆◇  後日から早速奴隷落ちした夫婦は仕事に精を出していた。私のことを気に入らなそうな目で見ていたが、お客様にそんな目は駄目! とキャロルに言われ隷属の首輪が反応し身悶えていた。痛みはないが精神に来るからなあれは。  朝食の味は意外にもかなり良かった。キャロルも言っていたがあの男、真面目にさえやれば料理は旨いらしい。  あの女も部屋の掃除に一生懸命(いやいやながらも)だし受付がキャロルに変わったこともあり今後は宿の評判も上がるかも知れない。  それならば私の目に狂いはなかったと言うことでもあり喜ばしいことだ。 「ご主人様、本日はこのまま魔導ギルドへ?」 「そうだな。フレンズ商会は結果が出るまでまだ掛かるだろうし」  魔法のバッグを3個卸したけど、正直未だアレが売れるのかが疑問だ。取引は取引だから例え売れなくても代金は頂かないといけない。  売れなかったらどうするのだろう? 本当にあんなもので1個金貨500枚で買うものがいるのだろうか?  それを私が今考えても仕方ないことだがな。とにかくあれは結果待ちだ。  メイと往来を歩く。あの魔導ギルドは町の端の方で宿からでも距離が結構あるのが難点だ。 「おいちょっと待てや!」  私たちが歩いているとどこかから怒鳴り声が聞こえてきた。ふむ、喧嘩だろうか? なんとも物騒だな。私には関係ない話だが。 「おい! 待てと言ってるだろう!」 「ご主人様、何やら待てと呼ばれてますよ」 「何? 私にだったのか?」  これは驚いた。まさか私に声をかけてくるものがいるとは思いもよらなかった。しかし、随分と乱暴な呼びかけもあったものだ。 「なんだ一体? それと人を呼ぶ時にそんな喧嘩を売るような言い方はやめたほうがいいと思うぞ?」 「売ってんだよ喧嘩を! お前、俺たちのこと忘れたとはいわせねぇぞ!」 「……誰だお前ら?」 「くそが! 嫌味でもなんでもない反応だこれ!」 「完全に記憶にないんじゃねぇかくそったれ!」  3人の男が地団駄踏んでいるが本当に誰だこいつらは? 「ご主人様、この連中は以前、冒険者ギルドの帰りに絡んできたチンピラです」 「うん? あぁそういえばそんなのがいたかな?」  言われてみれば鶏冠頭とか眼鏡とか何か記憶に無いこともない。 「それで、そのチンピラが何のようだ? まさかまたこりずにメイを寄越せとでも言うつもりか?」 「う、うるせぇ! 誰がチンピラだこら!」 「どうみてもチンピラだぞ」 「俺らは冒険者だ! しかもDランクのな!」  Dランクか。大したことないと思うが。確か冒険者のランクは最高がSで最低がGだったな。昔と変わってなければだが。 「くそ! 調子に乗っていられるのも今のうちだ! 兄貴、よろしくお願いしやす!」  兄貴と言われて、後ろからぬっと体格のいい男が姿を見せた。3人のチンピラにもデカいのがいたがそれより更に大きいか。上背は軽く2mは超えているし肩幅も広い。  ワイルドに立ち上がっている茶髪、瞳も狼のように鋭く、背中には大剣といった様相。なるほど、そこのチンピラよりは風格がある。 「へへ、兄貴がいればお前なんかな!」 「おい」 「え? なんですか兄貴?」 「俺はお前らの兄貴じゃねぇ。その呼び方はやめろ」 「え? あ、そ、そうですね。すみませんハザンさん……」  なんだ、兄貴兄貴言ってるから親しい間柄なのかと思えばそうでもなさそうじゃないか。ふむ、名前はハザンというのか。 「それとだ、本当にお前らはあの子どもとメイドに金品を取られたのか?」  うん? 取られた? 「それは、きっと貴方は騙されてますよ。その連中の方が先に絡んできたのですから」 「う、嘘ですぜハザンさん!」 「そうだぜ! あいつらの見た目に騙されちゃいけねぇ!」 「特にあの女が馬鹿みたいに強いんだ! 俺ら何もしてないのに暴行されて金品を奪われたんだ!」  うわぁ~この連中言ってて恥ずかしくないのか? 私もやっと思い出してきたが、確かにメイに何も出来ずやられていたのは事実だが、先に恐喝してきたのはこの連中だろうに。 「こいつらはこう言っているが本当か?」 「確かにその連中は返り討ちにしたが、だが金品を奪おうとしたのは――」 「そうか、そこまで聞ければいい」 「は?」  私の話を打ち切ってハザンが大剣を抜いた。なんだこの男は? 話せば少しは判ると思ったんだがな。 「……最初に仕掛けてきたのはそいつらですよ?」 「それはお前らの話だ。だが、こいつらは違うと言っている。お前らから奪われたとな。しかもこの3人を一方的にボコったのは本当なのだろう?」 「……愚かしいな」 「何?」 「何だ聞こえなかったのか? 全くいつになっても冒険者という馬鹿どものは変わり映えしなくてうんざりだ。人の話をまともに聞こうという頭すら持ち合わせていない。多少は話がわかるかと思えば貴様は貴様でただの脳筋なのだからな」 「よし判った。お前、俺と戦え」  は? 何か蟀谷に血管を浮かび上がらせながら突然勝負を挑まれたぞ。こっちはただ冷静に事実を話しただけだというのに、全く本当に冒険者という連中は……。
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