第二十七話 穴場の正体

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第二十七話 穴場の正体

 私たちは3人で、あのギルドの職員が言っていた群生地へ向かった。あの男が言っていた場所にはポータブルMFMを見る限り、確かにアロイ草が大量に群生していたし、冒険者の姿もなかった。  一見すると穴場っぽいけど、そんなところを教えてくれるわけないだろうし。    とにかく、進んだ。表示された場所までは苦もなく着くことが出来た。場所的にも特に問題はない。採取しにくい場所ということもなく、なんなら他よりも開けていて視界がいいぐらいだ。 「やっぱり、親切心で教えてくれたんですよぉ」 「お前は疑うことを知らんのか?」 「あ~またお前って言った! もう!」  アレクトはプリプリしながらアロイ草の採取を開始する。どうも拍子抜けだが確かに今のところ問題は、いや……。 「待て! ストップだ!」 「えぇ~? どうしてですかぁ? あ、さっきの人形にお願いするつもりなんですね! でも、こういうのは自分で採ってみるのもいいものなんですよ」  立ち上がり指を上下に振りながらずれたことを言っている。 「そうじゃない。周りを見てみろ」 「周り? あ!」  アレクトも気づいたか。メイはとっくに目つきを鋭くさせ準備ができている。  そんな私たちを取り囲むように魔物が姿を現した。中型の成犬程度の大きさの魔物だ。かなり特徴的な見た目で全身は植物が寄り集まって形成されたような姿であり、頭は花。花弁は閉じられているので巨大な蕾といった印象か。 「これは、確かプラントドッグです……」 「そうだ。中々詳しいじゃないか」 「これでも僕より大人ですからね」  えっへんと胸を張っているが、私より全然子どもなんだぞ貴様は。 「でも、そこまで好戦的じゃないと思ったのですがぁ、凄く怒ってそうです……」 「当然だな。向こうからしたら私たちは折角の餌を奪いに来た悪党ってところだろう」  プラントドッグは魔草を食べる。つまりここに群生しているアロイ草は奴らの大事な食料だ。 「ど、どうしよう……」 「そんなもの戦うに決まってるだろう」    私は鑑定眼鏡を取り出し、念の為にプラントドッグをチェックした。名前はやはりプラントドッグと表示され、脅威レベルは2と出た。ちなみにこの街に来る途中倒したブラックウルフで驚異レベルは4だ。  つまり強さで言えばプラントドッグはブラックウルフに劣る。だが、数が多いな。わらわら湧いてきて今20匹はいる状況だ。おかげでアレクトは一人ビビりまくっているぞ。 「か、数が多いですぅ!」 「そうだな。しかもこいつら人間がいると近くの魔草を食い荒らしてしまう面倒な性質がある」 「それでも、下手に刺激するよりは逃げたほうがいいような……」 「駄目だ。こいつらはここで叩く。人間に見られた時点でこいつはここらのアロイ草を食い荒らすのが目に見えてる」  この数だと戦いなれしてない物なら及び腰になるのも無理ないが、私とメイならどうとでもなる。とはいえだ。 「アレクトも植物を操れる魔法が使えるなら後方の連中をやれるだけやってみれくれ。メイはアレクトをサポートしてやってくれ。私は自分から見て正面と左右をやる」 「承知いたしました。ではお願いします」 「ふぇ、お、お願いしますって、うぅ、こうなったら破れかぶれ!」  アレクトもやる気になったようだ。私は私で腕輪からマイフルを取り出し、魔銃弾倉(マガジン)をHR弾を詰めたものに取り替えた。  込めてる魔弾は――除草弾だ。トリガーに力を込め、発射された弾丸がプラントドッグの一体の頭に命中した。  音速を超える弾丸がめり込み、魔物の体が持ち上がり、そのままひっくり返った。これで一匹仕留めたが、この弾丸の効果はここからだ。  プラントドッグが倒れたと同時に弾丸のあたった箇所が弾け、白い煙が広がった。あっという間に前方にいたプラントドッグを飲み込んでしまう。 「ギュゥゥウゥ……」  魔物のうめき声が聞こえ、次々と倒れていく。この煙には植物系の魔物の体を枯れさせる効果がある。植物系の魔物の多くは魔核と光合成と水分の組み合わせで生命活動を維持させている。  この煙はそのうち光合成による魔力生成を阻害し、同時に浸透性を逆転させ体内の水分を残さず漏出させ枯れさせる。  この術式は植物系の魔物の魔力にのみ反応して効果を及ぼすので魔物以外の植物には一切影響を及ばさないのも特徴だ。なんともクリーンな魔弾である。  私は同じ魔弾で左右のプラントドッグにも攻撃し、そしてあっという間に20匹の内15匹を仕留め終えた。数がどれだけいようと弱点をつければこんなにも簡単に終わる。  さて、後方を任せたアレクトはどうしたかな? 振り返り様子を見るが。 「プラントドッグを2匹、捕縛しました!」 「やりましたねアレクト様」 「いや、それ倒してないだろ……」  アレクトが随分と喜んでいるが、伸びた蔦で捕らえられたプラントドッグはなんとか逃げ出そうともがき続けている。  そして3匹はメイの側で息絶えていた。うん、大体のことは察しがつく。きっと飛びかかってきた3匹を先ずメイがあっさり片付けたのだろう。  残り2匹は様子を見ていたのだろうが、きっとメイはサポートに徹しプラントドッグが攻めあぐねる状況を作り出し、アレクトに魔法を行使させたのだろう。  だが、その結果が捕縛か。生け捕りが目的ならともかくこの程度の相手ならさっさと倒した方が早いのだが。 「もしかしてお前、相手を攻撃する魔法を覚えてないのか?」 「わ、私は普段は研究の方が好きなので、身を守る魔法程度しか……」  なるほど、これは最初から私が確認しておくべきだったな。ミスった。  仕方ないので捕縛されている2匹はマイフルで片付けた。これで20匹全部倒したぞ。 「凄い杖ですね……魔法の効果が施された杖というのはありますが、こんな強力なのは初めて見ました」 「杖じゃない。魔導小銃(マイフル)だ。あんな古めかしい道具と一緒にするな」 「まい、ふる? また知らない言葉が出てきましたぁ~」  目をぐるぐるさせはじめたぞ。魔導ギルドで唯一残ってるってことはこの女がマスターなんだよな? この程度で大丈夫かこのギルド? 「何かよくわからないけど、でも少し気の毒ですね……この魔物は好物のアロイ草を守りたかっただけでしょうし……」  アレクトが枯れて朽ち果てたプラントドッグを眺めながらまた妙なことを口走った。 「は? 何馬鹿なこと言ってるんだ?」 「な、なんですあその呆れ眼は~もう! お子様なのに君は失礼なのです!」  と言ってもな。呆れる他ない短絡的な考えだぞそれは。 「いいか? このアロイ草を採ろうとしただけでこのプラントドッグは20匹も群がってきたんだ。この意味を良く考えてみろ」 「きっとお腹が空いていたんですねぇ」 「お前もう魔術師やめろ」 「なんでですかぁ! 酷いです!」 「酷くない!」  全く、少しは頭を働かせろと。 「アレクト様、プラントドッグはアロイ草などの魔草を摂取することで魔核の魔力保有限界を超え、その過程を得て種を生み出し周囲にばらまくのです。そしてその種からもプラントドッグが増殖します」 「えっと、つまり魔草を食べることでプラントドッグの数が増える?」 「そういうことだ。アロイ草はそれでも繁殖力は強い方だから暫くは持つだろうが、プラントドッグが増え続ければ何れは繁殖出来る限界は軽く超える。この魔物は基本縄張りを決めてその範囲内で活動するが、当然食べられるアロイ草が尽きれば縄張りを移動する。つまり放っておけばこの森はプラントドッグに侵食されるだけだ」 「ふぇ! そ、それは大変じゃないですか!」  やっと気がついたか。ここまで話してやっととは鈍いぞ。 「だからプラントドッグはかわいそうどころか本来ならさっさと間引かないといかん魔物だ。こんなところで20匹も出るならこの辺りで相当増えてる筈だぞ」 「た、大変です! 早く冒険者ギルドに知らせないと!」 「は? お前はまだそんなことを言ってるのか? はぁ本当にとことんめでたい思考をしているな」 「エヘヘ、それ程でもぉ」 「アレクト様、ご主人様は特に褒めてはいませんよ」    本当にめでたいやつだ。 「そもそも冒険者ギルドはここにプラントドッグがいることぐらい知ってるだろう」 「え? でもそれならどうして対策しないのかな?」 「それは……ふん、怠惰な冒険者ギルドのことだ。この程度なら問題ないと思っているのだろう」 「ですが、確かに増えると言ってもそこまですぐに増えるものでもないでしょうから」 「そういうことだ。ここに出てきた20匹が特殊なだけで、これ以上出ることはないさ。判ったらさっさと進むぞ」 「え? まだ行くの?」 「当たり前だろ。折角これだけ大量のアロイ草が手に入るチャンスなんだ。どんどん奥へ進むぞ」  私はアレクトに先を急がせようと促すが……今の話は当然嘘だ。そしてメイも流石だ、私の意図をあっさりと理解してくれた。  冒険者ギルドは間違いなく間引く必要があることは理解しているし、計画もあったのだろう。だからこそ私たちにここを教えたのだ。  ふん、ご丁重に見張りまで用意してご苦労なことだ。だが、こう言っておけば奴らもこれ以上は踏み込んでこないだろう。  さて、精々奴らの策を利用させてもらうとするか。 ◇◆◇ side??? 「あいつら奥に向かったな……」 「こんなの話になかったわよ。どうするの?」 「どうすると言ってもな……」    ギルドで職長に呼ばれ、俺たちは特別任務とやらを言い渡された。なんでもこの辺りに魔導ギルドの女がやってきて場を荒らす可能性があるから見張っていろとのことだった。  その際、対処しきれなくて連中がピンチに陥るかも知れないがその時は仕方ないから助けてやれとも言われていた。  この辺りは明後日、討伐隊が結成され大掛かりな狩りが行われる予定だった。だから本来この辺りに関係のない連中がやってきて好き勝手やるのは好ましくない。    だからそれが発覚したらギルドに報告する手筈だったわけだ。そうなった場合ギルドは討伐隊まで結束しての狩りを邪魔されたことになるわけで、そうなるとあの連中はそれ相応の罰を受けることになった筈だ。金貨10枚20枚じゃ効かないと思うし、それで群生地が荒らされることになったらその分の罰金も課せられてしまう。  だが、予想外のことが起こった。なんと連中は全くピンチになることなくあっさりとプラントドッグを倒し、アロイ草を採取してしまったのだ。  正直こうなると困ったことになる。俺たちにくだされた司令はここにくる魔導ギルドの関係者を見張ること、そしてピンチになったら助けてギルドまで連れて行くことだった。  だが、実際はピンチにはなっていないし、群生地が荒らされることもなかった。つまり出る幕がなかった。  しかも、あいつらはそのまま奥まで行ってしまった。止めようかとも考えたが、それは俺たちの任務にはない。  職長からはあくまでピンチになったら助けるだけで余計なことするなと言われたし……ここまでの情報だけ伝えるに留めるか。 「よし、戻ろう」 「え? でもいいの?」 「仕方ない。それに少なくともあれぐらいの腕があれば奥に行って更に多くのプラントドッグに襲われても逃げることぐらい出来るだろうし」 「……むしろ全部倒しちゃったりな」 「はは、まさか」  それは流石に笑い飛ばした。討伐隊は50人編成で来る予定だ。この奥のプラントドッグはそれほど多い。思った以上に多いことに驚いて逃げ帰るのが精一杯な筈だ――。
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