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第二十九話 職長のお仕事?
私はギルドの職員だ。ギルドの職員というと事務しかやってないような目で見るのがいるが私は職長だ。職員全員を見る管理者だ。
受付嬢を含めた全員を見る私は偉いのだ。有象無象の職員と一緒にされては困る。
それはそれとして、昨日は小生意気なガキに腹が立ったものだが、今日はまたあとで魔草採取の結果を聞きに行かなければな。
それに今回は魔草採取以外の問題点を取り上げる必要がある。ただこれに関しては若干気になることもあった。
今回私はあの連中にアロイ草の群生地を教えてやった。それは親切心なわけもなく、あの連中を貶める魂胆があったからだ。
何せあの辺りはプラントドッグが増えすぎた事もあって、今度大掛かりな狩りが行われる予定だった。
だからそれが終わるまでは他の冒険者には危険だから立ち入らないようにと勧告してあった。
あくまで危険だからという意味合いが強く自己責任で立ち入ることも不可能ではないが、余計な真似をしてプラントドッグを刺激し、後日行われる狩りに支障が出るようなことが起きた場合にはペナルティーが課せられる。またその結果群生地がプラントドッグに荒らされたとしてもやはりペナルティーが課せられる。
これを逆手に取って、あの連中に群生地へ向かわせ、冒険者ギルドの活動に影響を及ぼしたと文句を付け、賠償金を求めるつもりだったのだ。勿論その結果群生地がだめになっていた場合その分も支払ってもらう必要がある。
そうなればアロイ草1本あたり銀貨1枚どころの話ではない。最低でも賠償金は金貨100枚分程度の金額になる。
筈なのだが、どうも見張りに付けていた冒険者の話だと、あの連中最初に遭遇したプラントドッグの群れは撃退してしまったらしい。
全く腹の立つ連中だ。結局見張りに向かわせていた冒険者はそれ以上追うのは止めていたしな。
だが、それもわからなくはない。私が教えてやったあの手付かずの群生地のあたりは奥に行けば更にプラントドッグが増えるからな。危険と判断して戻ってきたとしてもおかしくはなかった。
だが、私はこれを逆に好機と考えた。多少腕が立ったところで奥のプラントドッグの群れまで全て相手することなど無理な話だ。何せあの連中はたかが3人、しかも一人は小生意気だけなことが特徴のガキだ。後はメイドがいたがメイドが戦闘などこなせるわけもない。
魔術師のアレクトは戦闘を支援する魔法が主で、直接攻撃系の魔法は持っていない。最初の群れは何故倒せたかが気になるが、妙な杖を使っていたというし、あいつは魔導具師だなどと抜かしていた。
どこまで本当かわからんが、その場を切り抜けられる程度の魔導具は持参していたのだろう。だがそんなもの長くは続かん。
きっと奥で更に多くのプラントドッグの群れと遭遇し、すごすごと逃げ帰ってくるに違いない。こちらとしてはそれでも十分だ。プラントドッグは少し人間に遭遇しただけでもアロイ草を根まで食い荒らしてしまう。
つまりあいつらがあそこに足を踏み入れた時点でアロイ草の群生地に少なからず被害が出たということだ。
それはそれでギルドとしても多少は痛手だが、それを理由に借金を更に負わせることで、ドイル商会の要望に添えられると思えば安いものだ。
問題は、まさかそこでやられたりはしてないだろうな? という点だが、まぁ一応最初の群れを撃退出来る程度の腕があるなら、逃げることぐらい出来るだろう。
念の為、明朝から斥候能力の高い冒険者に様子を見には行かせているけどな。
その報告が来て、問題なければ回収のためギルドへ向かうとするか――
「フログ職長、何かお客様が見えてますが」
私が一人事務室で作業に掛かりながら考えていると、受付嬢の一人が来客の知らせを伝えに来た。私に客? はて、特に約束も無かったはずだが。
「今日は別に約束なんてないぞ。一体誰が来ているんだ?」
「それが、魔導ギルドからで、依頼されたアロイ草を持ってきたと」
「なんだと?」
あの女か。どうやら無事だったようだが、ギルドまでやってくるとは一体何を考えている。
「判ったすぐに向かう」
そう告げ、私は一旦仕事を中断し、ギルドの受付に出た。そこには確かにアレクトと、それに昨日の小生意気なガキとエロいメイドの姿もあった。
やれやれ全く礼儀のなってない奴らだ。折角いつもこちらから出向いてやってるというのに。
「驚いたよ。まさかそちらからギルドまでやってくるとはね」
「依頼を請けたんだから、報告のためにギルドへ出向くのはおかしなことじゃないだろう?」
あのガキが私に答えた。アレクトは妙におどおどした様子でもある。
「アレクト、一応は今の責任者はお前だろう? それなのになんでこんな子どもに好き勝手させる?」
「え、え~と、その、でも、いつも来てもらってばかりじゃ申し訳ないので」
「それともこちらから伺うことに何か問題でもありましたか?」
「2人の言うとおりだ。別に来るなと言われてるわけでもないのだからな」
「チッ」
思わず舌打ちが漏れた。魔導ギルドに仕事を回していることはあまり公にはされていない。尤もまともに仕事を回しているわけでもないが、中には俺たちを差し置いてと不満を感じる冒険者もいるかもしれないし、あの件もあるからこっちには来てほしくなかったのだがな。
だが、朝のピークは過ぎているからギルド内の冒険者の数はそこまで多くはない。
それにある意味丁度良いか。昨日の件を持ち出して追い詰めれば残っている冒険者が証人になる。後日の討伐依頼に影響が出ると知れば私に加担しこの3人を糾弾するのもあらわれることだろう。
「ま、問題はないさ」
「ならば見てもらおう」
「ちょっと待て。その前に聞いておきたいことがある」
「聞いておきたいことだと?」
私は内心ほくそ笑みながら、1枚の紙をカウンターに置いた。
「何だこれは?」
「これは今度行われる森での大規模な狩りについての案内と注意事項だ。ここにあるように、森の西部分はプラントドッグが増殖していて危険なのと、下手に刺激するとアロイ草の群生地に影響を及ぼす。だから基本立ち入りを禁じている。にもかかわらずお前たちがここに立ち入っていたと報告が入っていた。これはどういうことだ?」
「え? そんな、だって昨日はそこなら手付かずの群生地があると……」
「あぁ、だから言ったであろう? この場所は手付かずだが、危険だから立ち入るなとな。それを見事に無視してくれたわけだお前たちは」
私は奴らに説明してやった。勿論これは昨日この連中に伝えたことと全く異なる話だが、あれを聞いていたものなど他にいない。それにこの張り紙はギルド内にもしてある。
つまりギルドに確認しにくれば知り得た情報だ。尤も、もし連中がギルドに来た時はすぐに隠すつもりだったが。とにかく例えこの連中がこの件でギャーギャー騒いだところでどうとでもなることだ。
ふふ、さてさて更にこの件で追い詰めていくとするか。
「さて、依頼の結果を見るよりも先にこの件は片付けておかなければな。貴様らの余計な行動のせいでアロイ草の群生地が脅かされることとなった。それに下手に刺激されたおかげでプラントドッグの討伐がしにくくなった。当然これはペナルティーを課す必要がある。いやそれどころか賠償金も支払ってもらう必要が出てきているわけだが……」
「何を言っているのだ貴様は。寝言は寝てから言え」
「……はて? 私の耳がおかしいのかな? 何かずいぶんと反抗的な声が聞こえたが?」
ふん、あいかわらず小生意気なガキだ。ここから可能性があるとしたら昨日と話が違うということで食い下がってくるといったところか。
だが、そんなもの知らん存ぜぬでいくらでも通せる。私が違うことを言ったなどという証明は不可能だからだ。
「お前が見せているこの紙にはこうあるな。森の西に足を踏み入れることでプラントドッグを刺激し魔草の群生地などに被害が生じた場合、もしくは討伐に何らかの悪影響が出ると判断された場合、当該者に罰を与えると」
……ふむ、予想と違って話の違いには触れてこなかったな。だが、そんなことを確認してどういうつもりだ?
「そうだ。プラントドッグは人間の姿を見ると例え魔物から逃げるのに成功しても奴らは警戒心を強めるし、アロイ草を食い荒らす性質がある。お前たちのやった無責任な行動のせいでどれだけの被害が……」
「なら全く問題はないな。むしろ感謝して欲しいぐらいだ。何せそのプラントドッグは私たちが全て駆除したのだから」
「だからそういう問題ではないと……は? 駆除?」
なんだ、何を言っている? 駆除、だと?
「何を馬鹿なことを。10匹20匹の話をしているのではないのだぞ!」
語気が思わず強まった。恐らく報告で聞いたプラントドッグの事を言っているのだろう。確かにそれが報告どおりなら20匹は倒している可能性もあるが、事前の調査で森の西側に200匹以上いることが確認されている。
それを駆除など無理に決まっているだろう。
「なら証明しよう。下手に言いがかりを付けられないよう、そのまま回収してきたが、ここで出してもいいのか?」
「何? 出すだと。はは、面白いことを言う、いいだろう持ってきてみるといい。出来るものならな」
ふん、ハッタリだな。そんなことで私が焦るとでも思ったか? そもそもそれだけの数、持ってきていたら目立つだろう。馬車で来るにしても200匹以上のプラントドッグなど解体もせず1台で収まる量ではない。
「じゃあこれだ。しっかり見ろ」
「だからそんなもの、なぁあああぁあああぁああ!?」
な、なななななななっ、なんだ! 一体何が起きた! 今までそこに何もなかった筈だ! なのにギルドの床にプラントドッグの死骸の山が、山が出来上がっただと~~!
「お、おいおいなんだこれ! どうなってんだよ!」
「え? 俺目がおかしくなったか? 今何か急に山が出来たような……」
「出来たようなじゃないわ。出来たのよ! しかもこれプラントドッグじゃない!」
朝の多忙時より少ないとは言え、ギルド内には冒険者の姿もあった。そいつらもあまりのことに驚嘆している。
私は何度も目をこすった。だが、結果は変わらなかった。ギルドの空いたスペースにプラントドッグの山が出来ている。
「あともう一体、大物がいるがそれを出してもいいか?」
「お、大物だと? 馬鹿言うな! あそこにはプラントドッグしかいないはずだ!」
「そうか、やっぱり直に見たほうが早いか」
すると、山になった魔物の死骸の横に一際大きな魔物の死骸が並んだ。な、なんなんだこいつらは!
「これはウドルフだ。まぁ、冒険者の認識に合わせて言えばプラントドッグの変異種といったところだな」
へ、変異種だと? た、確かに魔物には突然変異の変異種が生まれることがある。だが、プラントドッグの変異種が出たことなどここ最近は聞いたことがない。
いや、だが……全くなかったわけじゃない。記録にもあったし言われてみればウドルフの名称にも記憶がある。
だが、ありえん! 変異種は当然だが元となる魔物よりも遥かに凶暴で強さも桁違いだ! それをこの3人が倒しただと? 疑うことを知らないお人好しの地味な女魔術師と小生意気なクソガキとただのメイドが?
「ありえん! 認めんぞこんなもの!」
「だからこうやった証明のために死骸をそのままもってきてるだろう」
「こ、こんなもの! きっとどこかで金に物を言わせて買ってきたのだろう! そうだ! そんなメイドを連れてるぐらいだ! この程度出来ないはずがない!」
「お前、本気で言ってるのか? この量の魔物を解体もせず素材も剥ぎ取らず、取っておいた物好きな店があるとでも?」
「ぐっ、な、なら、そうだ! 手柄を横取りしたんだな! きっとほかの冒険者が倒した魔物をこっそりと!」
「こっそりとこれだけの量をか? その冒険者はこれだけの魔物が奪われるのを黙って見ていたのか?」
「だ、黙れ黙れ黙れ!」
腹の立つガキだ! あ~いえばこう言う、この手のガキが私は一番嫌いだ!
「いいか! お前らが何を言おうと朝からうちの冒険者が森の調査に言ってる! 嘘なんてすぐに……」
「た、大変です! アロイの森にいたはずの大量のプラントドッグが、ま、全くいなくなってます!」
「朝調査にいきましたが、まるで消えたようにって、なんじゃこりゃーーーーーー!」
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