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第十話 魔導具で誤解を解く
一通り部屋を確認し終え、私とメイは元の部屋へと戻っていた。まだ時間はあることだし、この後は街に繰り出してみようと思う。
魔導具の件もあるしな。お金を得るために、何点か売りに出しておく必要がある。
メイと今後の予定について話し合っていると、部屋の木製ドアがノックされた。短く返事すると受付にいた宿の女主人であり、部屋を見せてもらいたいという。
既にプレートも外したし問題ないと思い応じたが、部屋に入るなりまじまじと中を確認したくる。なんとなしに、どうかしたのか問うてみたら、猫耳が何かを見たと言うから前の客が忘れ物でもしたのかもしれないという話だった。
私はこの回答に違和感を覚えた。何かを見た……猫耳は何かを言いたそうにしていたが、主人に威圧されて特に何も話そうとせず、結局そのまま女と一緒に部屋を出ていってしまった。
「……メイ、今のはもしかして?」
「はい。恐らくですが、壁に設置した扉を見られたのではないかと推測致します」
やっぱりそうか。短い間だったとは言え隠蔽してなかったのが災いしたか。
「メイ、魔導具のことは素直に言うべきだと思うか?」
「あまり得策ではないかと思います。出来ればあの魔導具に関しては黙っていた方が宜しいかと」
「そうか。だが、それだとあの子に迷惑が掛かるかも知れないしな……」
「でしたら、こういうのは如何でしょうか?」
メイが私に一つ考えを聞かせてくれた。なるほど、そちらの方がまだごまかしがきくかもしれない。
私はメイと部屋を出て、女主人の後を追った。階段近くで2人を発見したが、女主人が木の棒を振り上げていて、今にも猫耳に殴りつけそうなところだ。
「ちょっといいかな。もしかして君、ドアが見えたのかい?」
流石に私のミスで怪我されるようなことがあっては寝覚めが悪い。だから叱咤されている原因と思われる事に触れた。
「は、はい! そうなのです。お客様のお部屋の壁にドアがあったのを見て」
「そうか。ごめんね。実は私は魔法の研究者で、ちょうと幻覚魔法を試していたところなんだよ」
「幻覚魔法だって?」
「そうなんだ。私は集中すると周りが見えなくなる質で、それで彼女が部屋に入ってきたことにも気づかず魔法を続けてしまった。それできっと幻覚を見てしまったのだろう」
「そ、そうだったんだね」
猫耳の少女の表情には戸惑いも見られたが、安堵した様子も感じられる。とにかくこれで無駄に怒られることはないと思うが。
「ふ~ん、でも本当ですか?」
「何?」
「いえ、お客さんを疑うわけじゃないけど、そんな凄い魔法使いには見えないしねぇ。もしこの子を庇っているなら余計な真似はしてほしくないね。奴隷は甘い顔するとすぐ調子に乗るんだから」
抉るように唇を曲げて猫耳を見下ろした後、また私に顔を向けてきた。本性が窺える。とは言え悲しいかな奴隷を人とも物とも思わないような連中は多い。ようは大切にせず乱暴に扱うってことだ。
「やれやれ、ならこれで納得してもらえるかい?」
私が指を鳴らすと、周囲の壁や天井に次々にドアが浮かび上がっていく。宿主の女がギョッとした顔で叫んだ。
「こ、これは凄い、本当に魔法が使えるんだねぇ!」
それは語弊があるな。私は魔法は使えない。当然これも私が所持する魔導具の効果だ。幻想小箱という名前で置いた場所を中心に周囲のマイフ粒子に干渉し設定した幻を浮かび上がらせる。
正直戯れにつくった子どもの玩具のような魔導具だが役に立つこともあるものだ。タイミングを見て使用したのはメイで、私が指を鳴らすとすぐに回収して見せた。
「これで納得してくれたかな?」
「まぁ、そういうことならね。わざわざすまないね。ほら、あんたいくよ!」
「は、はい。あの、ありがとうございます」
一応納得はしたみたいだが、面白くなさそうではある。猫耳は私たちにお礼を言って宿主の女を追いかけた。
これで多少はマシになっただろうけど、かといってこれからの扱いがそこまで変わることはないかもしれない。
う~ん、少しは気になるが……あまりこのことばかりにかまけていられない。
とにかく、部屋も取れたことだし、私はメイと一緒に宿を出る。向かう先は魔導ギルドだ。
なぜかと言えば、魔導具は基本勝手に売ることは出来ないからだ。何せ魔導具は使いようによっては危険を伴う。魔法と異なり魔導具は手元にあれば基本誰でも使える為、勝手気ままに売っていると犯罪などに使われる恐れがある。
なので魔導具は販売する前に登録が義務付けされている。これは随分前に決まった制度なんだが、メイに尋ねると最近町に来たときにも制度は変わってなかったようだ。
なので、俺たちは宿を出てから魔導ギルドへ向かったのだが。
「メイ、ここ、商業ギルドと書いてあるが?」
「……おかしいですね。以前はここに魔導ギルドがあったのですが」
どうやらメイの記憶の場所にあった施設が変わってしまったようだ。魔導ギルドから商業ギルドにか。
さて、どうしようか。とりあえず私は、ポータブルMFMを起動させてみた。魔導車に搭載していた魔導具の小型版だ。ただ、やはり地形や建物の形に生命反応は表示されるが、各建物が何なのかまでは反映されていない。
これは仕組みとしてはようはマイフ粒子の観測だ。マイフ粒子は不可視粒子だが、生物や建物などあらゆる条件下で細かい変化を見せる。その変化を感じ取るのがこのMFMなのだが、流石にそれだけでそこに何の建物があるかまでは判断がつかない。
そこでだ、私は腕輪からこういったことに役立つ魔導具を取り出した。
非常に小さな虫型のこれ、その名もずばり調査虫だ。
これを放ち、街全体を調査してもらう。すると自動でその情報がこのポータブルMFMに反映されていく。おお、どんどん埋まっていき、バグが戻ってきた。音速で飛び回る虫だ。この程度の規模なら調査に10秒も掛からない。
「ご苦労さん」
私は魔導具を戻して改めて地図を見た。空間に半透明な画面が浮かんでいる。さっきまで未判明だった施設名もしっかり判るようになっていた。ちなみに表示はわかりやすいようにアイコン化されている。
さて魔導ギルドは、ん?
「ここ、か?」
ギルドには基本紋章が掲げられているのでそれをアイコン化してあるわけだが、魔導ギルドは杖がモチーフになっている事が多いので非常にわかりやすい。実際にすぐに場所はわかったのだが……。
「随分と、奥まった場所にあるな」
「そうですね。建物も小さそうです」
そうなのだ。通常こういったギルドは大きな通りに面しているか、多少大通りから外れていても見つかりやすく入りやすい場所に置かれるものだ。
実際商業ギルドや冒険者ギルドは広い通りの非常にわかりやすい場所に建設されている。
だが魔導ギルドはこのどちらにも当てはまらないのだ。場所も街の外れであり、しかも随分と入り組んだ路地を抜けた路地裏の裏の裏ぐらい奥まった場所に置かれていた。まるで人々から追いやられたかのような印象だ。
しかし、一体なぜこんなことになってるのか……それをここで考えても仕方ないか。
「まぁとりあえず、行ってみるとするか」
「はい、承知いたしましたご主人様」
そして私たちは魔導ギルドへ向かうことにした。
「この辺か……まさかこれか?」
地図があったからギルドを見つけるのはそこまで苦労しなかった。だが、見つけたその建物に疑問が湧く。
場所は周囲に廃屋しかないような閑散としたところであり、建物にしてもとてもくたびれた、つまるところかなりボロボロの木造家屋。なんというかとてもギルドが入るような代物じゃなさそうだが、しかし確かにギルドの紋章の刻まれた看板が申し訳なさげにドアの前に掛けられている。
……いや、間違いないんだよな?
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