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第十三話 マジックバッグ
「どうやらこのお店は変わらずあったようですね」
「うむ、さすがだなメイ」
メイの記憶を頼りにマジックバッグを売ったことのあるという商会にやってきた。一応ポータブルMFMでも確認はしてみたが間違いはなかった。
建物は冒険者ギルドほどではないが煉瓦造りの整った造りだった。尤も私からみればあのギルドにしろこの店舗にしろとても褒められた造りではないのだがな。
耐魔性は勿論、耐震性耐火性もなってない。パッと見ただけでも直すべき箇所が100箇所はある。
ベンツが見たら憤慨して、一旦全部ぶっ壊した後に建て直しそうなほどだ。
「入りますかご主人様?」
「そうだな。しかし、本当にマジックバッグなんかが売れるのか?」
「そうですね。これまで見てきた物やギルドの反応を見るに間違いないとは思いますが」
確かにメイの言う通り、未だ主要な乗り物は馬車であるし、魔導の照明すら整っておらずライフラインもさっぱりだが、それでもマジックバッグ如きにそこまでの価値が生まれるとは思えないんだがな。
「いらっしゃ~い」
ドアを開けるとカランカランとドアの縁に付けられた鈴が鳴り響いた。それに気がついた店主が挨拶をしてきたが、ふむ、随分と若いな。
見た目が私より幼いってことはないが、それでも人間で言えば成人である15歳か少し上かといったところか。
その視線は一旦は私に向けられたがすぐにメイに向けられ固まってしまった。おい、何胸を凝視してるんだお前。
「少し宜しいですか?」
「え? あ、ああ。何か捜し物かい?」
頬が赤いぞこいつ。メイが話しかけるとドギマギした様子で反問してきたが。
「いえ、探しものではなく、実は魔導具を買い取ってもらいたいのです」
「え? 魔導具? あんたが仕入れたものかい?」
「いえ、仕入れたのではなく、こちらのご主人様であるエドソンが作成した魔導具を買い取ってもらいたいのです」
「はぁ~?」
少年は私をジロジロと値踏みするように見ながら顔をしかめた。失礼な奴だな。
「悪いけど冷やかしなら他所でやってくれよ。全く、こんな子どもが魔導具って」
「な! 貴様無礼にも程が有るぞ! 大体貴様だって子どもではないか!」
「ぶっぶ~! 俺は16歳でもう十分大人です~女と一緒じゃないと買い物も出来ないお子ちゃまとは違うんだよ」
な、なんて失礼な奴だ! 確かに私は見た目こそこんなだが!
「舐めるなよ小僧。私はお前などよりずっと大人なのだ。年齢だって遥かに上だしな!」
「……何いってんだお前? はぁ、全くこれだからお子様は」
こ、こいつ! くそ、確かに今の私は見た目は子どもだしエルフの特徴である耳も隠し髪の色も染めている。つまり見た目は人間と変わらないのだからそれ相応の年に思われても仕方ないのかも知れないが……。
「ご主人様は子どもあつかいされるのが嫌いなのです。そういった難しい年頃ですのでご理解頂きたく思います」
いや! 何を言ってるんだメイ! 難しい年頃って……だがしかし、メイが目でここはお任せくださいと言っていた。くっ、仕方がない。
「ふ~ん、そういうことね。つまりそういうごっこを楽しんでるわけだ。でも、うちも暇じゃないからね。そんなありもしない魔導具を買うなんてままごとに付き合ってられないんだわ」
「いえ。魔導具については本当です」
「本当? 魔導具はあるってことなのかい。ふ~ん、それでどんな魔導具なのさ?」
こいつ、頬杖つきながら面倒臭そうに……さっきまでメイを見て鼻の下伸ばしていた癖に露骨に態度を変えてきたな……。
「お前、少し失礼が過ぎないか?」
「お前みたいな子どもに言われたくはないな」
「な! いい加減に!」
「お待ち下さい、ここは私がお話を致しますので」
メイになだめられる形で私は一歩引いて2人のやり取りを見守ることになった。腹の立つことも多いが、確かに今後旅を続けていけば腹の立つことや馬の合わない相手と話すことだってあるだろう。
そのたびにいちいちカリカリしていられないのも確かだ。
「判った、任せたぞメイ」
「はい。それではお話を続けさせていただきますが、買い取って頂きたいのはこちらになります」
「うん? 鞄? てかいまどこから出したんだ?」
「ふん、それはこの腕輪の中に入っていたのだ!」
「……はいはい、まぁいいや。それでこの鞄がなに?」
こ、こいつ、腕輪も鞄も胡散臭そうな目で見おってからに……。
「これは私が片手間に作った異空間収納鞄だ」
「は? 異空間?」
「簡単に言えば魔法の鞄、マジックバッグです」
「あぁ、マジックバッグね。ふ~ん、袋じゃなくて鞄タイプね……」
「はい。容量は最大1000kgとなってます」
「はぁ? 1000キロだって!?」
少年の目が見開かれた。随分と驚いているようだ。う~ん、やはりこの程度の魔導具では価値などつかないのではないか? 少し心配になってきたぞ。
「はは、冗談はやめてくれよ。あんたからかっているのか?」
「そんなことはありませんが……この通り、魔導具としての登録書もございます」
メイが胸元から紐で縛った書面を取り出した。てかどこから出すんだ……それに羊皮紙とは少々古臭い。今どきこのような不便な紙を使ってるものがいるのだろうか?
「……これいつ登録したやつ?」
「10年程前になります」
「10年前! はは、それこそ信じられないぜ。全く、でもこれで判ったぜ。つまりそういうことなんだな?」
「そういうこと?」
「つまりあんたらは俺がまだ若いからと思って騙そうとしてるんだろ? その書面だってよく出来ているが俺はだまされないぜ。この鞄だってそうだ。相手が悪かったな、俺はこれでも目利きには自信があるんだ」
何か雲行きが怪しくなってきたぞ。や、やっぱりこんな粗末な魔導具じゃ納得されてないのではないか? 所詮私が片手間で作った物だしな……。
「……なるほど。ところで以前来た時には別な御方が応対してくれたのですが、その方は?」
「別な方? もし親父のことならいないぜ。今は俺が店を任されてるんだよ。まぁ親父でもこんなチンケな詐欺に引っかからないと思うけどな。さぁ判ったらとっとと帰んな! 衛兵を呼ばれる前にな!」
え、衛兵だって? 確かに粗末な魔導具の買い取りをお願いはしたが、その程度で衛兵を呼ばれるというのか? 300年前と街並みも対して変わってないなと思ったものだが、そんなことで今は兵が動くのか。そのわりにさっきは冒険者が盗賊まがいのことをやってたりと何か無茶苦茶だぞ。
「仕方ありませんね。ご主人様、一旦出ましょう。このままでは話になりませんので」
「は、少しぐらい綺麗で胸が大きいからって男がホイホイ騙されると思ったら甘いんだよ」
「……私たちは一旦御暇いたしますが、お父上が戻られたら私たちのことをどうぞお伝え下さい。暫くは太陽の小町亭という宿におりますので」
メイはそう言い残し、私と店を出た。メイが言うのでおとなしくはしておいたが、なんとも小生意気な少年だったな。
「ご主人様申し訳ありません」
「いや、仕方ないさ。私もこんな玩具が売れるとは思ってなかったしな。予想通りだ」
「……いえ、これは性能が悪くて買い取ってもらえなかったわけではないのですが……」
「うん? ならなんなのだ?」
「恐らくあの方にとっては信じがたい性能だった為に、信用してもらえなかったのだと思います」
「ははは、メイは冗談が上手いなぁ。この程度のマジックバッグでそうは思わないだろう」
「……とりあえず、上手くあの方の父に伝わってくれれば、また話は変わってくると思うのですが……」
なぜあの少年の父親で話が変わるのか私には理解が出来なかったが、とりあえず今日のところは一旦2人で宿に戻ることにした。
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