第二十四話 ペナルティー

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第二十四話 ペナルティー

 この男が何を言っているのかさっぱり意味が判らない。 「なんだそれは。報酬に対してペナルティーが大きすぎだろ。話にならんな」 「ならば好きにするがいいさ。しかし貴様が知っているかわからんが、このギルドは依頼の失敗続きで大量の借金を背負っている。今日の分の違約金を合わせれば銀貨5000枚つまり金貨にすれば50枚もの金額を超えることだろう。まぁその内4000枚分は魔導具の権利を仕方なく買ってやったから補填出来たがね」  魔導具の権利? 本気か? 私は女に少し強めの視線を送るが。 「な、なんか目が怖いです。お子様なのに……」 「お子様言うな! てか、本当に魔導具の権利を売ったのか?」 「うぅ、よくわからないうちにそうなってました……」  よくわからないうちになんだそれは? 「おいおい、まるで騙されたみたいな言い方だな? 借金の形に権利を貰うことは契約でも定めてあったはずだぞ? 全くこれだから弱小ギルドは。書面もまともに見れないのだからな。依頼も失敗するわけだ」 「疑問ですね。なぜそのように思われるギルドに仕事を斡旋しているのですか?」 「そりゃまぁ、それでもこれまでは仕事をする姿勢だけは評価してやっていたのさ。だがそれに不満があると言うなら今すぐにでも耳を揃えて返してもらうだけだ」 「ふざけるな。こんなバカげた話がまかり通るわけがないだろう」 「しかしそれに納得したのはそこの女だ。契約書にもしっかり謳ってある」  私は女を見た。すると躊躇いがちな表情で、えっと、とつぶやき。 「あまり記憶にないのですが、確かに書かれていたのですぅ……」 「その契約書は今あるか?」 「はい、ここに」 「ふん、何度読んでも一緒だ馬鹿が」  性悪商人なように笑みを深めるギルド職員。これは絶対なにかあるな。この女もそんな重大な規約を見逃すほど流石に抜けては……いないともいいきれない気はするがしかし怪しいのは確かだ。 「ちょっと確認させてもらうよ」 「はい、え~と、表記はこれです」  彼女は白くて細長い人差し指で該当箇所をなぞってみせた。ふむ、確かにそこには依頼を失敗した場合、足りない分×銀貨1枚で支払うこととある。更に言えば、審査の結果不適合とされるアロイ草があった場合、手間賃として不適合分×銀貨1枚を違約金として支払うとあった上、支払えない場合は魔導具の権利などを売却し補填するとあった。なんだこれは? 無茶苦茶な契約だ。こんな不平等契約はあまりに馬鹿げている。  だが、確かに契約書には双方のサインがされている。こんな契約が国として認められるのかは甚だ疑問だが、とりあえず契約書としては彼女が認めたということで成り立っている。 「どうだ、しっかり文面に記されているだろう? 当然だ。冒険者ギルドに不正などありえない」  確かに表記はされている。だが、不正がない? 果たしてそうだろうか?     特にこのペナルティーが記されている部分の上下だけ、妙に隙間があるのが気になる。  だから私は鑑定眼鏡を取り出し、掛けてから再度書面を見た。 「ガキの癖に随分といい眼鏡をしているじゃないか。生意気な。そんなもの子どもが持つものじゃないな。よし私が貰ってやろう。寄越せ」 「……上げるわけがないでしょう。馬鹿なのですか貴方は?」 「な!?」  メイが汚物を見るような絶対零度な瞳を向け、はっきりと言い放った。いいぞメイ、ぐぎぎ、と歯ぎしりする男の顔が見れて少しだけスッとした。 「――やはりな。この部分だけ使われているインクが違う」 「な!?」  ギルド職員の男があからさまに驚き仰け反った。わかりやすい男だ。 「え、と、どういう意味ですか?」 「つまりこの表記は後から滲み出るように細工されていたってことだ」 「ば、馬鹿なことを! そんなことが出来るわけがないだろう!」 「可能だ。マニジ草から取れる液は普段は無色透明だが、乾くと生物の持つ魔力に反応し変色する。変色するまでの時間は濃度で調整できるから、古代から秘密の文章に利用されてきた。それを利用してこの一文が書かれたのだろうな」 「な、なな、なんでそんな技術のことを!」 「うん?」 「い、いや、知らん! なんだそれは知らんぞ!」  知らんって今はっきり知ってそうなことを言っただろうに。それにしてもまるでバレたのが信じられないみたいな口ぶりだったな。おいおいこの程度の魔力によるあぶりだし文章は秘密の文章の基本の基本だぞ。わからないほうがどうかしている。 「え? つまり私が気がつかなったのは?」 「気がつかなかったのではなく、契約の段階ではこの文字が消えていたということだ。当然だ。こんな頭のおかしい条件で請け負う馬鹿はいないだろう」  対価に比べてあまりに負担の方が大きいからな。こんなことで魔導具の権利まで奪われるのではたまったものじゃない。 「ふ、ふん! それが元から表記されていなかったと誰が証明出来る! 所詮子どものたわごとと笑いとばされるのが落ちだ!」 「この手の文章は古代からありふれてるやり方だ」 「あ、ありふれてるだと?」  だから何をそんなに驚いているのだこいつは? 「とにかく、今どきこんなもので騙し通せると思っている頭がおめでたいほどにな。しかるべきところで鑑定させればすぐに判明するだろう」 「ほ、ほぉ、ならばやってみるか?」  ふてぶてしいやつだ。しかし何か裏がありそうな笑みを浮かべている。この調子では既に多方面に手を回しているといったところか。  さてどうする? こんなものちょっとした魔導具でどうとでもなる。実際鑑定眼鏡を見せるだけでも証明は可能だが、それで納得するかは別問題だ。  そうなると回帰人形(シュタインズドール)でこの男の……。 「あ、あの! 私のことで心配おかけして申し訳ありません」  だが、そこで女が勢いよく頭を下げ、謝罪してきた。何故この女が謝るのか私には理解できない。 「ですが……いいのです。今回はしっかりチェック出来なかった私も悪いのですぅ」  眉を落として、そんなことを言い出す。すると聞いていた冒険者ギルドの職員がいやらしい笑みを浮かべ調子づいた。 「ふん、ようやく自分の立場を理解したか」 「おい! 本当にこれでいいのか!」 「はい……それに冒険者ギルドに協力してもらわないとお仕事がぁ……」 「はは! そういうことだ! 少しは頭が回るじゃないか。うちから仕事が切れたらもう借金を返すあてもなくなるしな。尤もうちだってこれ以上いつまで待てるかわかんないけどな」    本当に馬鹿げた話だ。その冒険者ギルドから斡旋された仕事のせいでここまで借金を背負っているのだろうに。 「もういい。お前がそれでいいならな。だが、ならせめて採取した魔草を返せ。こっちでもチェックしてみせる」 「それは無理だな。ギルドの規則で一度引き取った素材は返せないことになっている」 「なんだと? 確認すらさせないということか!」 「チェックは既に冒険者ギルド側でしている。疑う余地もない」  なんてやつらだこれじゃあやり放題じゃないか! 「さて、これでこの依頼の話は終わりだが……で、どうする? 今日の分は請けるかい?」  男がニヤニヤしながら次の話をしてきた。腹立たしい男だ。そもそもまともな依頼じゃない。本来ならこんなもの請ける馬鹿はいないだろうが、この女なら請けかねない。  だが、依頼か……それならばいっそのこと。 「一つ聞くが最低100束ということは多い分には制限ないのだな?」 「構わんが、500束の内401束を駄目にするような連中にあまり採ってこられてもな」  わざとらしく頭を振り否定的な意見を言う。その駄目になったというのも怪しい話だ。 「女、この依頼は請けるな?」 「え? は、はい。なんとか成功させないと借金が返せないのですぅ」  全くこいつは。その考えを付け込まれているというのに、このまま放っておいたら魔導ギルドそのものがどうなるかわかったもんじゃない。 「判ったその依頼は請けてやる」 「全く偉そうなガキだ。だが、そうだなその気概に免じていい情報を教えてやろう。いつも採取している森の西側に行くといい。あの辺りはうちの冒険者も手を付けていない場所だ。そこならアロイ草も多く群生してると思うぞ」 「随分と気前の良いことだな」 「おいおい、何か勘違いしてないか? 当然うちだってさっさと借金を返してもらいたいんだ。だが、ここまで情報を貰っておいて駄目でしたなんてことになったら流石にもう面倒見きれないぞ? ギルドマスターからもキツく言われてるからな」  もっともらしい事を言っているが、契約書の内容を見るにまともに魔草を受理する気なんてないのだろう。 「それじゃあ、ま、頑張れよ」    最後にそう言い残し、性根のひん曲がったような笑みを浮かべ出ていった。    ふん、どうせこの依頼も達成できないと思っているんだろう。だが、そうは問屋が卸さんさ。 「んしょ、んしょ」  するとあの女がボロボロの棚から、あっちこっちが解れている見すぼらしいズダ袋を取り出した。 「何をしているんだ?」 「え? あ、はい。魔草採取にいかないといけないので……」 「ならそんな袋はいらんぞ」 「ふぇ?」  何か間の抜けた顔を見せてるな。 「私には袋など必要としていない魔導具がある。だから問題ない」 「え? もしかしてぼくもいくつもりなのかなぁ?」 「ぼくじゃない! エドソンという名前がある!」 「ご、ごめんなさい、あ、私はアレクトです」 「私はメイドのメイと申します」 「ふぇ~綺麗なメイドさん……は! もしかしてどこぞの貴族のお坊ちゃま!」 「違う、そうではない。とにかく私をそこいらの子どもと同列に扱うな」 「だけど、森には魔物が出るし危険が一杯なんだよ?」 「問題ない。メイは強いし、私も戦える」 「子どもにあまり危険な真似は……」 「くどい! とにかくさっさといくぞ! あの馬鹿と冒険者ギルドにひと泡吹かせてやらんと気が進まん!」  アレクトは私を子ども扱いして一緒に行くことに不安を示してたが、強引に連れて行くことにした。  さて、どうやら魔草はこの街から30分ほど歩いた先にある森に群生してるようだ。  早速向かいたいところではあるが、その前にフレンズ商会によらせてもらう。 「これはこれはエドソン様、ようこそおいでくださいました。いや、あのマジックバッグ大好評でもう完売してしまったのですよ」  なんと、もう売れたのか? あれが? 金貨500枚で? 本当に冗談みたいな話だな。 「あんなものでも売れるんだな」 「ははは、ご冗談を。何せ1000kgも入るマジックバッグですから、当店でしか手に入らない目玉として売り出させて頂いてますよ」 「ふぇ! 1000kg!?」  なんか連れてきたアレクトが驚いているが、たかが1000kgで何をそんなに? 1000tと勘違いしているのか? だとしてもそこまで驚くことじゃないと思うぞ。 「お支払いの件でしたらすぐにでもご用意できますよ。それとよろしければ追加でもう何個か」 「あぁ、判った。ただ支払いはまた後日でいい。それより今日は相談があって来たのだ」 「相談ですか?」 「あぁ、この街の薬を扱ってる店に伝はあるか? できるだけ魔草について詳しいものを教えて欲しい」 「魔草ですか。うん、それならお任せください! 私の知り合いに魔草に関してやたら詳しいものがいますから!」  それを聞いて安心した。なので後の事はフレンズ商会に任せて、私は店を出た。追加でマジックバッグを5個発注されたな。  ふむ、あの程度なら片手間で作れるし問題ないが。 「あの、マジックバッグというのはどこかから仕入れているのですか?」 「は? お前は何を言っているのだ? そんなもの私が作成しているに決まってるだろ」 「……え? でも1000kgのマジックバッグなのですよね?」 「そうだが?」  私が答えると、口をパクパクさせて足を止めてしまった。全く何だというのか。大体動きを止めている場合じゃないだろう。 「何している? 早く行くぞ。時間が勿体無い――」 「おっと、これはこれはアレクトじゃないか。こんなところで会えるとは偶然なのか必然なのか、ところでそろそろ私の奴隷になる決心はついたかな?」    私がアレクトを促していると、何やら私たちに声をかけてきた相手がいた。振り返ると、またえらく脂ぎった男が立っていたわけだが……。
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