第二十八話 変異種

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第二十八話 変異種

「うぅうぅう、エドソンくんの嘘つきぃ~20匹なんて目じゃないぐらい出てきたじゃないですか~!」 「くどい! 終わったことをブツブツ言うな! 大体全て倒してるんだから問題ないだろう」 「はい。特に問題なく予定通りだと思われます」 「……正直そのマイフルという杖は強すぎですよぉ。なんであんな大量の魔物を一層出来るんですか!」    そう言われてもな。むしろ私からすればあの程度で苦労することのほうが意味わからない。 「採取完了です」 「あぁご苦労」 「……しかも結局その人形使うんだねぇ~」 「当たり前だ。あんなのいちいち手で毟っていられるか」    このあたりは全く手付かずだったみたいだから群生地は豊富だ。採れる量も多いのだから魔導具の力を使ったほうが効率が良い。  ちなみにプラントドッグはこれらの魔草を基本夜に食べる。そして昼間は再びアロイ草が繁殖するのを待つ魔物だ。  だが人間がやってくると取られまいと昼でも構わず食らうし、夜より食べ方が乱暴になるから根に深刻なダメージが残る。  この辺りの生態もプラントドッグが厄介な点の一つだな。さらに言えばある程度増えたことが夜でも起きる。増えたプラントドッグ同士で奪い合いになるからだ。  これもまたプラントドッグの厄介な特徴でもあるな。 「ところでまだ続けるんですかぁ?」 「当然だ。そうでないと意味がないからな」 「意味ですかぁ?」  アレクトは判ってないか。私とメイは理解しているが、あまり余計な情報は与えない方がいいだろう。  それからも暫く私たちは狩りと採取を続けた。途中私はリボルバーをアレクトに貸してやることにする。 「ふぇ、何か怖いですぅ」 「怖くない。いいからまた敵が出てきたらやってみろ。適当に撃っても問題ない」 「わ、わかりました!」  その直後プラントドッグの群れが出てきたので試させる。以外なことにわりとアレクトの構えは様になっていた。両手でしっかり握りしめ引き金を引き銃弾が飛び出る。    弾丸は地面に命中したがそれでも術式は発動するから問題ない。煙に巻かれてあっという間にプラントドッグは枯れていった。  メイは銃などなくても素手で駆逐できる。必要であれば魔法も使うだろうが全く意に介してない。  こうしてアレクトも銃を使うようになったことで更に効率は良くなった。しかし、大分増えていたんだなプラントドッグ。もう200以上は倒していると思うが―― 「……ご主人様、これは少し不味いかも知れません」  するとメイが若干表情を曇らせ、何やら不穏な事を口にした。メイはアンドメイドだが感覚が鋭く周囲の気配の変化に敏感だ。 「何かあったんですかぁ?」 「……はい。恐らくはプラントドッグを狩りすぎたかと、周囲のカオス値が急上昇しています」 「ムッ、そうかヘイト管理か……うっかりしてたな」 「カオス? ヘイト管理? え~となんですかそれは?」 「何って……カオスだぞ。ロウとカオスのな。ロウカオス理論ぐらい知ってるだろ?」 「……初めて聞きました。でも、お子様なのに難しい言葉知ってるんだねぇ」 「て、撫でるな!」  何故か頭を撫で撫でしてきたので、その手を払いのける。 「うぅ、いけずですぅ」 「いい加減子供扱いをやめろ」 「でも、子どもですよね?」 「くっ……」  この見た目が憎い! そしてメイも何かむずむずと口元が動いて手を出したり引っ込めたりしていた。どうした? 調子が悪いのか?  それにしても300年前に私が証明したロウカオス理論を知らないとは……まさか今の魔術師のレベルが軒並みこれと同レベルってことはないよな?  いや、きっとこの女が物を知らないだけか……とにかく。 「魔物を倒すと魔核の属性値が少なからずカオス側に動く。それがすくなければ特に問題になることはないが、狭い範囲内で短い間に大量に倒すと積もり積もったカオスが呼び水になりより強力な魔物を生み出すことがあるんだ」 「ふぇ~そうなんですね。あ、でも何か突然強力な変異種が現れて甚大な被害が出たみたいな話はきいたことがあったような……」  それは恐らくヘイト管理を失敗した結果だろう。しかし変異種か……確かにヘイトによるカオスは特に同じ魔物を多く倒した場合に多く溜まり、結果その魔物に近い上位魔物が現れることが多いが。 「それでどうにかなるのかなぁ?」 「ヘイトのことなら解消方法はある」  しかも何種類かだ。最も単純なのはさっさと魔核を回収し引き上げること。ヘイトを溜める要因が倒した魔物の魔核にあるから当然だ。  後は一部の魔法でその場のロウ値を高める方法。意外に思うものも多いがアンデッドに効果のある浄化の魔法も効果的だ。そもそもアンデッドという存在がカオスに支配された結果の産物だからな。  そして魔法で対処が可能な以上、当然魔導具でも可能だ。私も浄化系の魔弾は持っている。  ただ、念の為私はポータブルMFMを起動して周囲を確認してみるが。 「ふむ、どうやら遅かったようだな」 「遅かったですか?」 「あぁ、既にカオスの影響で新たな魔物が生まれつつある」 「ええぇえええぇええ!?」  えらい驚きようだな。ポータブルMFMには敵意のある相手は赤い点で表示されるが、その点が激しく点滅しているのはカオス値の上昇によって魔物が生まれる前兆だ。 「出てくるものは仕方ない。ヘイトによるカオス増加の影響で生まれる魔物は凶暴で破壊衝動にかられて暴れまわる。ここで叩くほかないな」 「叩くって、それにその魔物はどこに出るんですかぁ?」 「ここだよ」 「ふぇ?」  アレクトが間の抜けた返事をみせるのとほぼ同時に、正面の地面がボコッと盛り上がり、弾け、土塊を周囲に撒き散らしながら巨大な魔物が姿を見せた。 『グォオオオォオオオオォオオ!』 「で、出たーーーーーー!」  仰天してひっくり返るアレクト。とんでもない格好になってるぞ。すぐに起き上がって気恥ずかしそうにしてるけど。 「こ、こんなの無理ですよ! なんですかこれぇ!」 「ウドルフという魔物だ。そしてお前は少しは落ち着きを持て」  木の根が複雑に絡み合ったような体をした魔物だ。大きさはプラントドッグなんかとは比べ物にならない。全長5mといったところか。顔も巨木が捻れて構成されたような様相で、口に当たる部分が開き雄叫びを上げていた。 「脅威レベルは6だな」 「それってどれぐらいなの?」 「プラントドッグで驚異レベル2だ」 「え? じゃあプラントドッグ3匹分ぐらいということですか? そう考えると少しいけるかなって気になるかも……」  全く単純な奴だ。そんな簡単な話なわけないだろう。 「言っておくが驚異レベルが1増えるだけで戦闘力は大体3倍ぐらい上がるぞ。ちなみにブラックドッグで驚異レベル4だ」 「ひぇええぇええええ! それブラックドッグの何倍ですか!」  まぁ単純に考えれば9倍ぐらいか。なんだ大したことないな。 「いいから準備しろ。来るぞ!」 「ふぇ? 来る?」  ウドルフの胴体から大量の根が伸びてきた。触手のように靭やかな根で、自在性が高い。 「ひ、ひぇえええぇええええ!」 「チッ、メイ守ってやれ」 「承知いたしました」  メイにまかせておけばやられることないだろう。私は私ですぐに腕輪から魔導具を取り出し飛び乗って回避を開始する。 「め、メイさん凄い! でも、エドソンくん、また変な道具使ってる、え~と板?」 「変なって言うな! いいか? これは立体飛導躁機(オープンスカイボード)だ!」  といってもアレクトは不思議顔を見せるだけだが。 「重力と風を操作する術式の組み合わせで空中を自在に動き回ることが出来るのが特徴の魔導具だよ。それだけ理解しておけ」    先端が丸みを帯びていて、尾翼のついた金属板といった形の魔導具だが、なかなかのお気に入りではある。魔導車は上手く操縦できなかったがこれなら余裕で動かせる。  乗り手も含めて重力操作によって慣性の影響を受けなくし、足もボードに固定され常にベストなバランスを保つことが出来る。重力の膜で空気抵抗も常にゼロとなり、あとは風の操作で縦横無尽に自由に動くことが可能だ。  速度も重力との組み合わせのおかげで音速を超えるし乗り手への影響も少ない。  私は上下左右から迫りくる根の触手をボードを操縦し、躱しながらマイフルを構える。 「アレクトも攻撃しろ、一斉にいくぞ!」 「は、はい!」  メイの手で小脇に抱えられたような状態のアレクトがリボルバーの銃口を魔物に向ける。根による攻撃はメイが飛び回り、時には殴って物理的に軌道を反らしていた。  私とアレクトの放った弾丸が次々とウドルフに命中していく。煙が立ち込め魔物をすっぽりと包みこんだ。これで……。 『グウウォオオオォオオォオオオオオ!』  空気を揺らすような咆哮。衝撃で周囲の木々がなぎ倒されていく。  だが重力に干渉する魔導具に乗っている私は影響が少ない。メイとてこれぐらいでは怯まない。  アレクトは、泣きそうな顔を見せているが、命に別状があるわけじゃないし問題ないだろう。  だが、ウドルフを包みこんでいた煙は掻き消されてしまった。  なるほど、黙ってやられているほど愚かではないということか。 「ど、ど、どうするんですかぁ。何か効いてないですよぉ」 「情けない声を出すな。メイ、弾丸を交換してやれ。火炎術式(フレイム)弾だ」 「承知しました」  戸惑っているアレクトの銃を取り、中心から折るようにした後、高速で弾丸を取り替える。  私もマガジンを交換した。これで準備完了だ。 「それで少しはマシな筈だ。撃ってみろ!」 「わ、わかりましたぁ」  再び引き金に指を掛け連続で撃ち込んでいく。アレクトの弾丸が次々命中し、あたった箇所から炎が発生し根が燃え上がっていく。 『グゥウウッゥウウウ』 「凄い、こんな大きい火まで生み出せるなんて」 「驚くのはまだまだ早い」  しかしこの魔物、少しはやるかと思ったがリボルバーの火炎術式弾程度でこれとは拍子抜けだ。 「もっと大物を食らわせてやろう。爆裂術式(グレネード)弾だ!」  トリガーを引き、発射された弾丸が巨大な顔に命中し、派手な爆発が生じる。 『グギャァアアァアアア!』 「どうやら効果てきめんのようだな!」  アレクトの弾丸で炎は更に燃え広がっていき、私のグレネード弾がその体を蹂躙する。植物は火に弱い。基本的な話だ。 「さぁ、どんどんいくぞ!」  そして、それから更に数発ずつフレイム弾とグレネード弾を喰らい、ウドルフは地面に倒れ全身に火がまわり、そして遂に炭と化して生命活動を停止させた。  ふむ、所詮はこの程度だったか。終わってみれば大したことはなかったな。  アレクトは何かえらく感動していたが、とにかくその後は七変化の小人たち(セブンチェンジドール)が採取したアロイ草も回収し、引き上げることとなった。  さて、あとは冒険者ギルドだな――
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