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16時前にバイト先に到着すると、ちょうど二階堂くんが男子のロッカー室から出てきたところだった。
制服の白いワイシャツ、黒のカフェエプロンにスラックスが、小顔で長身の二階堂くんにびっくりするくらいよく似合っていて、わたしは一瞬息を止めてしまった。
──これは……女性のお客さんが増えるかもしれないな。
「あ……えっと、多分同じシフトだね。よろしくお願いします」
「……よろしく」
二階堂くんは小声でそう言うと、静かにスタッフルームを出て行った。まなの言っていた通り、本当に無口な人みたいだ。
年齢も近いし、今のスタッフのメンバーを考えると、おそらくわたしが二階堂くんの教育係になるだろう。どうしようかな──という漠然とした不安が、胸の中に浮き上がった。
*
「前島さん、今日から入る二階堂くん。まずはレジ作業を覚えてもらうから、いろいろ教えてあげて」
「はい」
「二階堂くん、今日は前島さんの横に立って見てて。できそうなことがあったら、手伝ってあげてね」
「……はい」
──ああ、やっぱりだ。別に二階堂くんがどうとかじゃなくて、わたし、人に何かを教えるのって得意じゃないんだよね。つい気が急いてしまって、教える順序が混乱してしまう。テンパる、とでもいうのか。
「あ、えっと……とりあえずこれ、メニュー表です。最近は寒くなってきたから、一番出るのはブレンドのM。お客さんは近くのビルに入ってる会社の人たちが多くて……」
「……」
二階堂くんは無言でメニュー表の裏表を交互に見ている。わたしの話……聞いてくれてるのかな。
「レジの中、説明するね。基本的にドリンクは、余程時間かかるのじゃない限りはわたしたちが作るんだけど」
「……」
──二階堂くん、お願いだから、せめて頷くくらいして……。
わたしは不安で涙目になりかけながら、黙ったままカウンター内をきょろきょろとする二階堂くんに早口で説明を続けた。
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