#10 同級生

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──Side 侑一 「向かいのカフェ、イケメンが入ったみたいよ」 その日の朝、始業前に給湯室でコーヒーを淹れていると、女子社員が数人で盛り上がっていた。向かいのカフェ、というワードが引っかかって思わず聞き耳を立ててしまう。 「うそ。いつ行ったら会える?」 「夕方だと思う。わたし昨日見てきたけど、やばかったよ。背高くて超小顔で。愛想悪いけど、あれだけイケメンなら許す」 「若いの?」 「大学生とかじゃないかな。ほんとにイケメン。コーヒー受け取るとき手が震えるレベル」 マジ、そんなに?やばーい。俺より若い女子社員たちは、まるで学生のようなノリでお喋りをしながら給湯室を出て行った。朝から元気だなあ、と素直に感心する。 ──そんなにイケメン、なのか。 学生バイトってことは、紗友里と同じ歳くらいか?それなら彼女とシフトも被っているだろう。仕事も教えてたりして。 ……小顔、長身、震えるレベルのイケメン。先ほどの女子社員たちの言葉を反芻(はんすう)すると、気になっていても立ってもいられない気持ちになる。俺はバカか、気にしても仕方ないだろう。そうは思うが、気になるものは仕方ない。 「川田。今日、会社戻る?」 給湯室を出て、ちょうどトイレから出てきた川田を思わず呼び止める。川田は不審そうに「定時過ぎるけどな。なんかあった?」と俺に尋ねた。 「……向かいのカフェ行かねえ?」 「はぁ?」 川田がますます、奇妙なものでも見るような表情になる。そんな顔するな、俺だって恥を忍んで頼んでるんだから。 「お前も残業確定だろ?俺も今日は残業になりそうだから、コーヒーでも買いに行こうぜ」 「いや、いいけど……」 なんでわざわざ約束すんの?女子かよ。川田はそう呟きながら、事務所に戻っていった。 ──ああ、俺、何やってんだろ。こんなの、紗友里に絶対バレたくない。でも今日、確かバイトだったよな。……まあ、残業のためにコーヒーを買いに行くだけだ。別に、不自然なことは何もないし。 心の中でぶつぶつと言い訳をしながら、俺も川田に続いて事務所に戻った。今日は朝から取引先回りだ。頭を切り替えないと。
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