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──Side 侑一
会計は紗友里がしてくれたが、コーヒーを淹れて持ってきてくれたのは「二階堂くん」だった。ぼそっと「どうぞ」と言われて初めてまともに顔を見たが……なるほど、と男の俺でも感心してしまった。
色白の肌にさらさらの黒髪、奥二重の瞼に少しつり目のキリッとした顔立ち。かたちのいい卵形の小顔。
見たところ、他人と目を合わせるのが得意ではなさそうだ。店に入ってきた女性客が軒並み「イケメン!」と騒いでいるのに、長い睫毛は一向に伏せられたままだった。
しかし、その無愛想なのが独特のアンニュイな雰囲気を醸し出している。イケメンは得だ。
コーヒーを受け取った以上、店に居座る理由はない。俺は後ろ髪を引かれる思いで、カウンターの紗友里に小さく手を振ってカフェを後にした。
──あんなのと一緒に働くのか、俺の彼女は。
はっきり言って、心中穏やかではない。あんな男が近くにいて、他の女性が騒いでいたようにドキドキしたりしないのだろうか。
前に紗友里を迎えに行ったときに見た、ピアスの男の子といい……最近の大学生ってあんなのばかりなのか?平凡を絵に描いたような容姿の俺とは、住む世界がまるで違う気がする。
「モデルみたいだなー。メンノンとかに載っててもおかしくないんじゃね?顔採用だな、顔採用」
「……川田、お前は人の心を抉るのが好きだよな」
「いや、古賀の方がいい男だって。だって、あんなに大人しそうだった彼女が、すげー色っぽく……」
「お前はオヤジか」
謎のジェスチャーで何かを表そうとしていた川田の頭を、後ろから思い切り叩く。
──だから心配なのだ。彼氏の欲目だと言われても構わない。紗友里は、少しずつ確実に綺麗になっている。いつ他の男に狙われるか分からないと──俺は、密かにもやもやと案じている。
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