#10 同級生

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「……前島の、知り合い?」 上がる直前の20時少し前、カップなどの補充作業をしていると、二階堂くんが突然口を開いた。 「え?」 「さっきの、サラリーマン的な人」 二階堂くんはこちらを見ずに、黙々と補充作業をしながら言う。 「知り合い……っていうか、えっと」 「彼氏?」 「……うん」 わたしはスティックシュガーを補充しながら、小さく頷く。もう3ヶ月以上付き合ってるのに、「彼氏」って改めて口に出すのは何だかくすぐったい。 ──そういえば、侑一さんのスーツ姿、久しぶりに見たなぁ。今日は紺のスーツにワインレッドの細いストライプのネクタイ。シンプルだけどセンスが良くて、見る度にドキドキしちゃうんだよね。やっぱり、かっこよかったなぁ……。 「前島、手止まってる」 「あっ」 二階堂くんの鋭い指摘ではっとして、慌てて手を動かす。次はマドラーと、ストローと……。 「……どこで、出会うの。サラリーマンなんて」 二階堂くんが入って1週間ちょっと、こんなに口数が多い日は初めてかもしれない。いつもは二人で作業をしていても、特に話もせずしんとしていることが多いから。 「えっと……紹介、かな」 「ああ、合コンか」 合コン、とは言いにくかったからぼかした(・・・・)のに、さらりとそう言われてしまう。一瞬言葉に詰まったけれど、別に変な出会いでもないし──と「うん」と小さく返事をした。 「女子大生と付き合うサラリーマンって、どうなの」 その言葉に思わず顔を上げると、二階堂くんが怪訝そうな顔でわたしを見ていた。 「え……」 「おっさんでしょ、俺らからしたら」 二階堂くんは吐き捨てるように言って、「20時になったんで、お先」とカウンターを出て行ってしまった。 ──えっ、今……なんて? 自分の耳を疑いながらも、確かに聞こえた「おっさん」という言葉が頭の中に鈍く響き渡る。 どうしてそんなことを言われないといけないの、という怒りの気持ちが湧いてきたのは、チーフが「前島さん、もう上がって大丈夫だよ」と声を掛けてくれて我に返ったときだった。
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