#6 助手席の熱

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──Side 侑一 紗友里ちゃんを乗せて走ること1時間余り。海岸沿いをしばらく走って、運河が有名な観光地に到着した。 土曜日なので街は賑わっていて、駐車場を見つけるのも一苦労だったが、ガラスやオルゴールのお店に入るなり目を輝かせる紗友里ちゃんを見て、そんな苦労など吹き飛んでしまった。 「ほんとに楽しかったです。可愛いアクセサリーとか、いっぱい売ってましたね」 「うん。久しぶりに来たけど、俺も楽しかった」 ──こんなに喜んでくれるなら、連れてきてよかったな。 いろいろなお店を巡ったあとコーヒーが美味しいと評判のカフェに行って、時刻は午後5時を回っていた。 「紗友里ちゃん、今日はまだ時間大丈夫?」 観光客の波はまだ途切れることなく、俺たちは人混みの間を()って駐車場に向かう。 「はい。まだ全然大丈夫です」 「ご飯、戻ってから食べようか。時間的にもちょうどいいと思うし」 人混みだし──なんて自分に言い訳をしながら、俺は紗友里ちゃんの小さな手をぎゅっと握った。 「あっ……えっと、はい」 紗友里ちゃんは驚いたように、交互に俺の顔と繋がれた手を見ている。 ──ほんと……いちいち可愛いんだよな、反応が。 「人すごいから、気をつけて」 「はい。……ありがとうございます」 紗友里ちゃんは少し照れたような表情で、俺の手をきゅっと握り返してくれた。 一緒ににいればいるほど、彼女の全てが可愛く思えてしまって──参ったなぁ、と思う。
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