居酒屋まるの包丁騒動記

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入り口から二番目の席に座っていたウカさんは、常温の日本酒を涼やかなブルーの切子細工の杯に注いで、栃尾の油揚げをつまみに飲んでいたところ。 今夜のお客さんは、この二人だけだった。 いつもなら、猫又の珠美さんや自称狼男の木戸もいることが多いのだが、二人はミハイさんよりは気配りができるらしく、ウカさんが来店している気を感じとると同席を遠慮する。 ちなみに、ミハイさんは誰がいても遠慮しない。 そんな気配りは、きっと持っていないんだ、吸血鬼って。 ミハイさんだけでなく、お仲間の吸血鬼も誰一人として細やかな気配りはしないなあと、ちょっとだけ残念な種族であることを再認識。 そんな二人が俺以外とほとんどしゃべらないまま飲んでいるところに、人間のお客さんが来たのだ。 本来なら表の止まり木にヤタガラスのヤタがいてくれて、があがあ鳴いて教えてくれたり、道に迷わせてここに辿り着けなくしてくれたり(一応、神様の遣いらしき力はあるが、ちっとも発揮してくれない)するのだが、今夜はウカさんが「俺がいるんだからいいよ。たまには早く戻っておやすみ。」などと言って帰してしまっていた。
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