居酒屋まるの包丁騒動記

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珠美さんには、いつもの刺身の盛り合わせと、一夜干しをさっと炙ったもの。 木戸には、好物の半生の唐揚げと、豚肉と野菜のロール巻き。 さて。 「少しばかり、お時間いただきますね。」 お客さんたちに断りを入れてから、俺は道真公用の料理を始めた。 太宰府天満宮から連想したのは、どうしても梅。 梅と言えば、俺は亡き祖母ちゃんから引き継いだ糠床の他に、梅干しの味を守っているわけで、毎年梅干し作りをしている。 スーパーで売っている塩分控えめのやつとは真逆の、昔ながらの塩っ辛くて酸っぱいやつだ。 購入した梅の大半は梅干しにして、残りを梅シロップと梅味噌にしてある。 今回は、この梅味噌を使う。 梅味噌の作り方はいろいろだが、俺はよく洗って丁寧に水気を取りへたを取り除いた梅と味噌と砂糖を漬け込んでいる。 味噌に梅のいい香りが移るし、柔らかくなった梅を取り出して種を取り除いてミキサーにかけ、ペースト状にして味噌と混ぜ合わせて使うと、さらに梅の味が際立つ。 簡単な料理で申し訳ないが、時間が時間なので、出来立てをすぐにウカさんに届けてもらえばいいかなと。 使うのは、鶏肉。 牛肉は、太宰府天満宮に御神牛の像があったので、使うのをやめておく。
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