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俺は、首から下げている御守りを作務衣の胸元から出し、呼びかける。
「ウカさん。すいませんが、取りに来てもらっていいでしょうか。」
昨日の今日で、約束をしていたわけじゃないから、急にお願いをしてもいいだろうか。
都合を聞いた方がよかったかなと思っていると、表の方からヤタガラスのヤタの「ぎゃあ!これはこれは宇迦之御魂神様!ようこそ、このようなあばら家へ!」という失礼な声がした。
「何よ、ヤタったら。ご主人様のタカ様から叱ってもらえばいいんだわ。」
俺よりも、お客さんたちが怒る。
ヤタの主は、タカさんこと高御産巣日神(たかみむすびのかみ)様で、高天原を作った三柱の神様の一人。
ウカさん以上に忙しいらしく、なかなか店に来ていただけない代わりにヤタを店の案内役にと遣わしてくれたんだが、この通り、余計なことの方が多い。
「やあ、ヤタ。おまえのご主人様お気に入りのこの店をあばら家呼ばわりとは、勇気があるね。俺だったら、そんな家来絶対許さないかなあ。」
「ぎ、ぎ、ぎゃー・・・」
ウカさんに窘められ、ヤタの声がしわがれて低くなる。
戸ががらりと開いて、「お待たせ、泉実。」とまったく待っていないくらいの早さでウカさんが来店してくれた。
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