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「允さん、もしかして柊木先生と何かありましたか?ノア君から様子がおかしいと聞いたんですが」  翌日。昼休憩に入った時、そんなメッセージが香晴から届いた。  いつの間にか息子と香晴の間には情報を共有する関係が出来上がっていたらしい。将来的に一緒に暮らすことになりそうなのだから、それは喜ばしいことなのだが、今回ばかりは少しばかり困ってしまった。  何度も打ち直しながら、結局は正直に打ち明けることにする。流石にキスをされたことまでは言わない方がいいだろうと判断し、そこだけは曖昧にぼかしながらだったが。  すると、即座に携帯が着信を伝えた。案の定、香晴からの電話だった。  時間を見て余裕があることを確認すると、急いで人気の少ない非常階段に向かった。 「はい」 「もしもし、允さん。急に掛けてごめん。どうしても気になってしまって」 「大丈夫です。僕も直接話さなくてはいけないかなと思っていたので。香晴さんこそ、今学校ですよね?」 「私も問題ありません。車の中から掛けているので、誰にも聞かれる心配ありませんし」  その光景を想像して微かに笑ってしまった。 「なんだか僕たち、いけないことをしているみたいですね」 「ですね。ところでさっきの話なんですが、本当に迫られただけで何もされてませんか」  急に真剣な声音で訊かれて、一瞬間ができてしまった。我に返り、急いではいと返事をしたが、香晴はその間を聞き逃さなかったらしい。 「どこまでされたんですか」 「何もされてませんよ」 「嘘ですね」 「嘘じゃな……」 「允、正直に教えて。俺は允のことが心配なんだ」  香晴のこの話し方に弱いという新事実を発見しながら、允はこれ以上隠しても無駄だと悟った。 「実は、ほんの少しキスされました。口と、耳に」 「………」  沈黙が怖い。何か言ってくれないものかと思っていたら、ようやく香晴は言葉を紡いだ。 「それで、どうでしたか。彼とのキスは、良かったですか」  その声が微かに震えているのを感じて、香晴が嫉妬と同時に不安になっているのだと気が付く。それが分かると気持ちが落ち着いてきて、しっかりと答えていた。 「いいえ、僕はキスさえも香晴さんじゃないと受け入れられないみたいです。体も心も。今度は何としてでもされないように気を付けるので、安心してください」 「允さん、でも私は、それでも……」  唐突に声が途切れたかと思うと、電話の向こうで誰かの声がしてきた。振り返って確認するが、やはり允の周りの音ではないらしい。香晴の方に誰かが話しかけているようだった。 「何なんですか、一体」 「早乙女先生が誰と話しているのか……」  電話越しに聞き覚えのある声がして、反射的に体が強張った。おそらく話している相手はほぼ間違いなく柊木だ。 「ごめんなさい、切りますね」  何事か争うような声が聞こえたかと思うと、香晴はそう告げていきなり通話を切った。  嫌な予感を覚えて、急いでメッセージを送るが、なかなか返事が来ないまま昼休憩は終わり、ようやく返ってきたのはそれから一時間ほど経った後だった。 「柊木先生とはちゃんと話をつけたので大丈夫です。大事な話があるので、明日学校へ来てくれませんか。何時でも構わないので。保健室で待ってます」  少しばかり妙だと思ったが、送り主を確認しても間違いなく香晴からだ。特に疑うこともなく、そのまま了承の返信をしていた。
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