飛翔

5/13
前へ
/105ページ
次へ
僕にはふたつの隠し事がある。 ひとつは、お尻のところに犬のような、ふさふさとした白い尻尾がくっついていること。 僕は愛情をもって、「シッポ」と呼んでいる。 なんとなくだが、カタカナにするとペットの名前みたいで愛着がわくからだ。 発音(アクセント)は「ZIPPO(ジッポ)」というライターと同じで、「ポ」の音を下げない。 シッポとは幼い頃から、ずうっと一緒だった。 人に見られてはいけない相棒なので、いつの間にか隠すのも上手くなった。 今では僕が意図的に見せようと思わない限り、他人に気付かれることはない。 ふたつ目は、満月の夜に現れる、僕の裏の顔だ。 僕は月光が統治する(しろしめす)世界で空の暴走族(スピードスター)となる。 祖父の遺した有人操縦ドローンに乗り、シッポを風になびかせて都会の夜を飛翔するのだ。 満月の光を浴びるとき、僕の心は歓びで満たされる。 他のどのドローン乗り(フライヤー)よりも優れているのだと、実感できるからだ。
/105ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加