雨の給湯室、上流の蛍

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雨の給湯室、上流の蛍

 壁掛けのカレンダーを一枚破ると、改めてもう六月なのだと気づく。一日が過ぎていくのが早いと感じ始めたのは、社会人になってからだろうか。この感覚のまま、気づけば年末になってしまう。年が変わる頃には私は何をしているのだろう、前向きに仕事を始めていれば良いのだけれど。 「お嬢さん、少しだけ表情が変わったのう」  ゲンゴロウに依頼され、玄関先の外水道のホースを付け替えながら、私はその言葉に首を傾ける。長年使っていたホースに穴が空き、水が漏れてしまうようになったのだ。使い古された外水道に新品のホースが加わると、不格好ながら新たな門出を迎えた者を見守る気持ちになり、情がわく。きっとこのホースも前と同じように大切に使われるに違いない。  私はゲンゴロウさんにホースの具合を確かめて貰いながら、先ほどの質問に回答をする。 「そうかな。だと良いんだけど」 「うむ。憑き物が取れて肩の荷が軽くなった顔をしておるわい」 「そうなんだ。これからも迷惑をかけてしまうと思うし、色々なことを話すかもしれない。その時は、改めて、よろしくお願いします」 「そんなに畏まらなくとも大丈夫じゃ。何でも気楽に聞いてやるから、難しく考えないようにの」
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