雨の給湯室、上流の蛍

32/33
182人が本棚に入れています
本棚に追加
/223ページ
 私はゲンゴロウのポジティブの源を、今正しく知ったような気がする。彼は決して、常に前向きなわけではないのだ。マイナスとプラスの両面から物事を見ることが出来るため、目の前の出来事を冷静に判断しているのだ。だから心に余裕があり、いつもおおらかな様子でどっしりと構えていられるのだろう。 「お嬢さんもそうじゃ。退職をしたのは、お嬢さんが成長するきっかけを掴んだに過ぎないのじゃよ。そして今、お嬢さんは変わろうとしている。お嬢さんは仕事で失敗をして、退職をしたことを後悔しているようじゃが、それは違う。成長をするチャンスを掴んだのじゃ」 「成長する、チャンスを……」 「そうだとも。前向きに落ち込むんじゃろう?」  そう言うとゲンゴロウは頭上から私の手の平へ舞い降りると、ニヤリと白い歯を見せて笑う。私もつられて微笑んだ。 「うん、ありがとう。退職しなければ、ゲンゴロウさんとも会えなかったしね」 「そうじゃ、そうじゃ。ワシのいない人生など、醤油のかかっていない冷奴みたいな物じゃ」 「……うん。うん、そうだね」
/223ページ

最初のコメントを投稿しよう!