七月二十日

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七月二十日

 七月の上旬、梅雨明けの発表はまだないが、明らかに季節は夏へと向かっている。湿った空気に蒸し暑さが混ざり始めたのがその証拠だ。全身をスチームアイロンで伸ばされているかのような熱気に、私は思わず眉を寄せる。シワが失くなれば良いのだが、暑さは人間を猫背にするばかりだ。 「今日は暑いわね」 「花子さん、コメントと表情が合っていないよ」 「あら、そうかしら」  オフシーズンに入った花子は、汗一つ浮かべないままアイスを咥えると、私の傍らで雑誌を広げている。夏は暖かい気候に合わせて人々の心が上向くため、薬の出番が少なく、追加の注文が出ることは殆どない。家を空ける多忙さに追われた数ヶ月を懐かしむかのように、花子は優雅に麦茶の入ったグラスを傾ける。 「お嬢さんは若いのにだらしないのう。しゃんとせんかい」 「のんびりするために来ているんだし、少しは許してよ」 「ほっほ、お嬢さんも言うようになったのう」  ゲンゴロウは肩に下げたタオルで顔を拭くと、縁側へ飛び乗り「ワシはお嬢さんの分もシャキッと休憩するんじゃ」と背筋を伸ばした。そんな彼にバニラ味のアイスバーを差し出すと、私達は縁側に並んで座り、ほっと一息を吐く。シロは急な暑さの到来に疲れたのだろう。扇風機の前で座布団を枕にして眠ったまま、起きる気配がない。火照る微風が微睡みを誘う穏やかな午後が、静かに過ぎていく。
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