私は立ち直りたい

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私は立ち直りたい

 田舎の生活は洗練されていて、今の私にはとても眩しい。掃除、洗濯、料理を済ませれば、後は何もすることがないのも私にとっては事件だった。その一方で、時間を持て余すと脳の奥底から辞めた職場の情景が浮かび、私の心を刺激する。鋭く光る上司の目、ミスを囁く同僚に、落ち込む私。仕事を忘れるために職場を離れたのに、こんなふうに思い出すなんて、私は頭を振り、過去の私を意識の外へ押し出そうとする。  私はくらりと揺れる視界に遺影を収めながら考える。こんな姿を祖母が見たら、どう思うだろうか。私は祖母と通話をしていたあの頃を思い返す。祖母は、私の話を全て聞いた後、全てを笑い話にすることが得意だった。そう、今髪の毛が乱れた私の姿を見たら、きっと品良く笑いながらこう言うのだろう。  ーー澄佳ちゃん、髪の毛がぼさぼさになっているわよ。そうね、下敷きを脇の下で擦って、静電気でイタズラされた時によく似ているわ。うんうん、素敵よ。
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