介護施設で経験したひんやりな出来事

1/1
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ

介護施設で経験したひんやりな出来事

あれは今から2年前の夏。俺は地方にある介護施設で働いていた。介護施設にも様々な種類があるが、俺が働いていたのは「グループホーム」という種類の施設だ。この施設は認知症の高齢者の方がひとつの建物で共同生活をする施設、分かりやすく言うと高齢者専用のシェアハウスみたいなものだ。 このグループホームでは24時間スタッフがいないといけないから夜勤もやらなくてはいけない。夜勤は基本、1人での勤務だから、1人でオムツ交換や巡回、施設の掃除、眠れない利用者様の話を聞いたりなど、やる事がたくさんあり、とても大変な仕事だ。 そのグループホームでの夜勤中、他のスタッフではなかなか体験できないような「ひんやり」とした体験をした。 あれは8月の半ば頃、あの日もいつものように定時の巡回をしていた。その最中に共同スペースにあるキッチンの方でガサゴソと音が聞こえてきた。少し話は逸れるが、うちの施設では「看取り看護」というものをやっている。ようは末期の癌などになった場合、最期の時を病院ではなく施設で迎えるという取り組みの事をいう。だから必然的に施設でお亡くなりになる利用者様が何人かいる。だからなのかたまに心霊的な現象が起きたりする。例えば誰もいないのにトイレで水を流す音が聞こえてきたり、お風呂場の電気が勝手についたりなどといった、スタンダードな現象が起こる時がある、一番驚いたのは、数日前にお亡くなりになった利用者様がお風呂場に入っていく後ろ姿を見た事だ。それも夜中に。 なので今回もそういった「ひんやり」な現象が起きているのかと思い、恐る恐るキッチンを覗いてみたら、高木さん(仮名)という利用者様が立っていた。この方は夜中でもたまにキッチンに立ち、料理を作ろうとされる事がある。昔の記憶がそうさせるのだろう。そういう時は話をゆっくり聞いてお部屋に戻って頂く。 高木さんにお部屋に戻って頂き、巡回の続きをしていたがどうも焦げ臭い。最初は何かの勘違いかと思い巡回を続けていたが、その臭いはどんどん強くなってくる。ここで俺は先ほどキッチンに立っていた高木さんを思い出す。高木さんは以前に紙で作った袋を鍋と思い込んでコンロにかけようとしていた事があった。1回だけだったので油断していたがもしかしてまた…とキッチンに戻ろうとした時、「ジリリリ!!」というけたたましいベルの音と共に天井に備え付けてあったスプリンクラーから一斉に放水。 そう、俺の危惧した通りにコンロの火をつけ、紙の鍋をかけていたのだ。 スプリンクラーが起動したおかげで大きな火事にはならず怪我人も出なかったので良かったが、その後は消防署に連絡がいって騒ぎになるし、当然、上司からも怒られるし、スプリンクラーの放水を受けると木製の家具の中には使えなくなる物があるようで、家具の何個かは買い替える事になってさらに怒られるし、まさしく「ひんやり」の連続だった。 でも一番ひんやりだったのは、居ずらくなって退職を余儀なくされ、仕事を失った事かもしれない。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!