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プロローグ 2024年10月 全国大会 平愛美|皆本悠二
舞台袖。ブレザー服姿の部員達、否、奏者達が舞台上に入っていった。指揮者である彼女はブラックのジャケットとスラックス姿、指揮棒を片手に奏者達の楽器や楽譜の準備が出来るのを待っていた。腕章をしたタイムキーパーが声を掛けてきた。
「平先生、そろそろお願いします」
舞台袖で様子を見ていたタイムキーパーが待っていたタキシード姿の男性に声を掛けた。
「皆本先生、そろそろ願います」
彼は頷くと舞台上が静まり返った瞬間、舞台袖から一歩を踏み出した。まだ20代という若いその男性を奥のコントラバスやチューバ、ユーフォニアム、オーボエやファゴットの子達が彼を見つめているのを感じた。
彼女はゆっくりと指揮台へと向かった。観客席からはまだ20代という若さなのに落ち着いているとみられていたけど、そんな事はない。心臓はバクバクと鳴っている。それをみんなが気づいてないだけだ。そんな事を思う彼女の足音だけがホール内を響く。彼女が慌てたら奏者達が動揺する。そんな事でこの機会を台無しにはしたくない。
彼は指揮台の前で深呼吸すると観客席の方へ振り返って一礼して指揮台へ上がった。
指揮台に上がった彼女は視線を走らせて奏者達が準備できているか確認した。大丈夫。いつもの通りやればみんな出来るよ。
彼は軽く頷くと両腕を構えた。奏者達も一斉に楽器を構えた。問題はなさそうだ、行くぞ。
そして彼女の指揮棒が振られ始めた。美しい音楽の始まり。アンサンブルが綺麗に揃って鳴り響く。
指揮台の上で彼の両腕が動きそれに応えて金管が、木管が音楽を紡ぎ始めた。楽しい音楽の時間の始まりだ。
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