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結香と蓮
ラブホテルのベッドの脇に立ち、向かい合わせのキスが終わると、池宮君は私の体を回して背後から抱きしめた。
「ぁッ……」
首筋に落ちたキスがうなじを這い上がる。
「どうして欲しい?」
耳元で囁く。
「そんなこと……」
言えるわけがない。
ついこの間まで高校生だったとは思えない落ち着き払った態度に、このまま翻弄されてしまいそうな予感がした。それは甘く切ない期待となって、私の胸を締めつける。
シャワー上がりの胸をバスローブの上から弄びながら、彼は言った。
「今夜、僕は結香のものだよ。貴女が悦ぶことだったら、どんなことでもしてあげる」
胸への刺激と初めて呼ばれた名前に、体の芯から熱いものがほとばしるのを感じた。
「蓮くん……」
切なく名を呼びながら首を捻り、唇を求めた。
はだけられたバスローブの襟元、ずらされたブラの下で露わになった乳房が外気に触れる。
そっと包み込むように、彼の指がそのふくらみを揉み上げた。
「ぁぁ……」
ずっと、こうされたかった。
いつからだろう?
きっと、あの夜、テーブルを挟んで話をしていた時からだと思う。私は、教師と生徒を越えた感情を彼に感じ始めていた。
どうしてだろう?
わからない。抱かれたいと思う気持ちに理由なんかいらない。
ただ、あの賭けがなければ、こんなふうに抱かれることなんてなかったと思う。どんなに心や体が求めたとしても、最後の最後には踏みとどまったはずだ。私のほうがずっと年上だし、ましてや、卒業したとはいえ彼は教え子。お行儀よく生きてきた私が、そんな人を相手にこんな遊びのような形で抱かれるなんてありえない。
でも、この指を離れたダーツがボードの真ん中に刺さった瞬間、私はこれは運命だという気持ちになった。
今夜、彼に抱かれることなんて、ずっと前から決まっていたことだ。
私を立ったままショーツ一枚の体にすると、蓮くんはベッドの上へと導いた。誘われるまま体を横たえ、ショーツを脱がされる。そのときにはもう、私は、恥ずかしいくらいにそれを濡らしてしまっていた。
唇から耳朶、うなじから胸、脇の下、お腹、足のつけ根を通って内股、そして足の指に至るまで、彼は舌と唇を使って丁寧に愛撫してくれた。
嘘つき……、と私は思っていた。
「僕と満里奈さんはそんなおかしな関係じゃない」蓮くんの言ったあの言葉は嘘だと思う。こんな女の体を知り尽くした愛撫を彼に教えたのは、きっとその満里奈という女性だ。彼女の名を口にするときの彼に、予感があった。
そんなことを考えると、とても切ない気持ちになる。
「気持ちいい?」
全身を舐め尽くしたあと、蓮くんは聞いてきた。
私は何も言えず、潤みきった瞳で彼を見た。彼の愛撫はうっとりするくらい気持ちよかった。ただ、本当に欲しい場所には、指先も、唇も舌も、一度も触れてくれてはいない。
「意地悪」
甘えるように言った。
「欲しいなら欲しいって言えばいいのに」
彼はクスリと笑った。
私は覆い被さった彼の首に抱きつき、引き寄せた耳元に囁いた。
「あそこも、して」
「かしこまりました。姫様」
戯けた口調で言うと、彼は体をずらし、私の両脚の間に滑り込んできた。お腹の上にキスを浴びせながら、ゆっくりと下がっていく。
「ぁ……」
やがて蓮は、広げた両脚の付け根に顔を埋めた。
「ぁぁあ……ッ」
今までとは比べものにならない快感が、私に襲いかかる。
「ゃ……、ぁッ……、ぁんッ」
そうしてじっくりと私を感じさせたあと、彼は、指の先で剥き出した一点をツンツンと舌先で突っついた。
「ゃ……、だめッ……、ぁああッッ!」
焦れったい刺激に、それだけでいってしまいそうだった。
しかし彼は、すんでの所まで私を焦らすと、続いて指を埋めてきた。
「ぁぁ……」
長い指が挿入される感覚に喉の奥で喘ぐ。ゆっくり出し入れされると、泣いてしまいそうなくらい気持ちいい。
やがて彼は、深く埋めた指を鈎のように折り曲げ、私の裏側の壁を刺激し始めた。
そこを小刻みに擦り上げられると、喩えようもなく切ない感覚に襲われる。
私は、シーツを手のひらに握り込みながら、体を大きくのけぞらせた。
もう少し、あともう少しなのに届かない。
彼の指がかき回す水音が、いっそう大きく立ち上っている。
「ぁッッ!」
同時に舌先でそこの一点を刺激されると、快感に意識が白く霞んだ。
こんなの、初めてだった。
「あッ、あああッッ!」
立て続けに襲いかかる大波に、私は、このまま溶けてなくなってしまいそうだった。
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