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「“カエンイモムシ”。ベニイロシジミの幼虫だわよ。言ったでしょ? ニビイロオオアリとベニイロシジミは共生関係だって」
瓶底眼鏡でエルドレッドを見上げ、フリーデが説明を続ける。
口調は熱いが、視線の方は至極冷ややかに彼を射すくめる。
「カエンイモムシは、知らない臭いを察知すると、可燃性の粘液を吐き出すのよ。それと、カエンイモムシは尾端に蜜腺を持っていて、栄養価の高い蜜を出すの。その蜜はニビイロオオアリの女王の主食になってる。だからニビイロオオアリはカエンイモムシを大切に飼育しているのよ。侵入者の排除と、女王アリの食事のためにね」
「それが共生なのか」
冷たくあしらわれるエルドレッドだったが、フリーデの博識には素直な感嘆を覚えた。
「それにしても、フリーデは生き物のこと、よく知ってるな。感心するよ」
「お世辞を言っても、何の得にもならないわよ」
言いつつも、フリーデの鋼鉄の瞳が、眼鏡の底で初めて笑った。
無愛想で、言葉も表情もぶっきらぼうな少女だ。
……それでもちゃんと笑えばちゃんと可愛い。
素朴な印象を抱いたエルドレッドだった。
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