第三章 黄色の森

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 そんな彼の横で、ナナエがルーテルに向かって頭を下げた。 「ごめんなさい。わたしの“湧水”では、この火を消すには足りません」  その華奢な肩は力を失い、唇を噛み締めている。  炎が刻む陰影が、この魔術師の少女が抱える悔しさを浮き彫りにするかのようだ。  うなだれるナナエの華奢な肩に、そっとルーテルが手を添えた。 「ナナエ君が気に病むことはないよ。所詮、この炎の壁もこけおどしに過ぎない。程なく消える」  騎士の言葉を裏付けるように、赤く揺らめく炎の壁は次第に小さくなり、やがて消え失せた。  地面には、ぷすぷすと白煙を上げる焦げ跡が残されている。  エルドレッド、ナナエ、それにルーテルの視線がフリーデに集まる。  フリーデ自身も注目を感じたのか、三人に視線を巡らせた。 「分かったわよね? この塚の入口で頑張ってる番人、カエンイモムシがとても厄介で、簡単にはこの中に入れないって」 「あいつらを退治しないと中には入れない、ってことか?」 「冗談。そんなの自殺行為だわよ」  言葉をフリーデに一蹴され、エルドレッドはぐっと口をつぐんだ。
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