第三章 黄色の森

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 フリーデの揺らぎのない、確信に満ちた言葉を聞き、ナナエの視線がエルドレッドに向けられた。  金緑の無垢な瞳が、全幅の信頼に潤んだ光を帯びている。  一抹の嫌悪感を留めてはいるものの、それ以上の決意がはっきりと読み取れる。    ――必ず義兄を無事に連れ帰る――、そんな確固とした意志を秘めた、強い表情だ。  エルドレッドは、ナナエに向かって小さくうなずき、ルーテルを正視した。 「ここはフリーデの言うとおりにしませんか? ナナエの義兄さんを助け出すまでは」 「そうだね。今はそれが最上の策だろう」  ルーテルも間髪を容れずに深くうなずく。  そして三人を順に見回してから、エルドレッドに視線を戻した。 「我々はどう動くのが妥当だろうか? エルドレッド君」  不意に振られたエルドレッドだったが、頭に浮かんだ行動を言葉に並べてみる。 「俺たちで幼虫に成りすまして塚に侵入したら、まず女王アリを倒して、ナナエの義兄さんを助け出す。それからすぐに全員で脱出して、あとは出入口を塞いで塚を焼き払う……、っていうのはどうですか?」  腕組みして立つフリーデを見ながら、エルドレッドは付け加える。 「女王アリの倒し方とか、アリ人間と塚の中のことはフリーデに確かめながら……」  そこまで淀みなく口にしたエルドレッド。  そんなことをさらりと言えた自分にぎょっとして、エルドレッドは思わず棒立ちになった。
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