第三章 黄色の森

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 騎士ルーテルが、満足げな笑みを浮かべ、髪をくしゃくしゃといじるエルドレッドを見ている。  何度もうなずきつつ、ルーテルが言う。 「妥当な線だろう。優先は、まずはナナエ君のお義兄さんの保護だ。それから機会を捉えて、女王アリの駆除を目指そう。異議はあるかな? ナナエ君、フリーデ君」  フリーデが首を横に振った。  ナナエも眉根を寄せつつ、ポツリと洩らす。 「分かりました。騎士さま……」  顔色は良くないが、今は他に手はない。  ナナエにもそれが分かっているのだろう。  ルーテルが、居並ぶエルドレッドたちに、もう一度うなずきかける。 「では決まりだ。すぐに準備にかかろう」  言うが早いか、グラブを外したルーテルが、フリーデが捧げ持つ巨蝶の臓物に両手を突っ込んだ。  ぐちゃぐちゃとかき回し、臓物と体液を念入りに混ぜ合わせて薄緑のクリームに仕立て上げると、顔や鎧に塗りたくる。  フリーデも巨蝶の残骸を地面に置くと、何のためらいもなく、臓物の軟膏を露出した手足に塗ってゆく。    ナナエが蒼ざめた唇を震わせて、エルドレッドを見上げてきた。 「エルドレッドさん……」  彼女の縋るようなヘーゼルの瞳を真っ直ぐ見返して、エルドレッドは力を込めて言葉を掛ける。 「義兄さんを助け出すまでの辛抱だから。一緒に頑張ろう」
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