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ナナエの唇に桜色が戻ってきた。
口許をきゅっと結び、ナナエが強くうなずく。
エルドレッドもうなずき返すと、籠手を外した手を悪臭紛々たる軟膏の中に手を入れた。
ひどい臭気と気色の悪い触感が、鼻と指先を通して背筋まで一気に伝わってくる。
だがナナエやルーテルの手前、ためらう素振りはとても見せられない。
エルドレッドはクリームがべっとり付いた手で、頬や胸甲、それに盾にも念入りに展ばし付ける。
彼に続いてクリームを手に取ったナナエも、泣きそうな表情を見せつつも、すらりと締まった脚やほっそりとした白い腕に塗り付けている。
ものの三分ばかりで、全員が巨蝶の臓物が漂わせる不快な臭いに包まれた。
「準備はいいかい?」
ルーテルの短い問いに、フリーデが聞き返した。
「灯りは持ってる?」
「ああ、俺が持ってる」
即座に答えたエルドレッドは、ナップサックからランタンを取り出した。
油もまだ充分に入っている。
数時間は闇の中でも活動できるだろう。
それを見て、フリーデが腰に付けた小さなポーチからガラスの小瓶を出すと、エルドレッドに差し出した。
中には青く澄んだ液体が詰まっている。
「油にこれを混ぜといて。高純度の銅を精錬する過程でできるものなんだけど」
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