第三章 黄色の森

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 ナナエの唇に桜色が戻ってきた。  口許をきゅっと結び、ナナエが強くうなずく。  エルドレッドもうなずき返すと、籠手を外した手を悪臭紛々たる軟膏の中に手を入れた。  ひどい臭気と気色の悪い触感が、鼻と指先を通して背筋まで一気に伝わってくる。  だがナナエやルーテルの手前、ためらう素振りはとても見せられない。  エルドレッドはクリームがべっとり付いた手で、頬や胸甲、それに盾にも念入りに展ばし付ける。  彼に続いてクリームを手に取ったナナエも、泣きそうな表情を見せつつも、すらりと締まった脚やほっそりとした白い腕に塗り付けている。  ものの三分ばかりで、全員が巨蝶の臓物が漂わせる不快な臭いに包まれた。 「準備はいいかい?」  ルーテルの短い問いに、フリーデが聞き返した。 「灯りは持ってる?」 「ああ、俺が持ってる」  即座に答えたエルドレッドは、ナップサックからランタンを取り出した。  油もまだ充分に入っている。  数時間は闇の中でも活動できるだろう。  それを見て、フリーデが腰に付けた小さなポーチからガラスの小瓶を出すと、エルドレッドに差し出した。  中には青く澄んだ液体が詰まっている。 「油にこれを混ぜといて。高純度の銅を精錬する過程でできるものなんだけど」
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