第三章 黄色の森

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 フリーデの小さな手からガラス瓶を受け取ったエルドレッドは、彼女の言うままに、青い液体をランタンの中に注ぎ込んだ。  薄い茶色を帯びたランタンの油は、見る間に青く染まってゆく。 「何ですか? これ」  興味深そうにランタンを見つめるナナエが聞くと、フリーデがエルドレッドに視線を向けた。 「ランタンを点けてみて。本当は、布に染ませて生水のろ過に使う顔料よ。あたしらドヴェルガンが野営のときに使ってる」  エルドレッドは地面に置いたランタンの芯に、馴れた手付きで火を点した。音もなく燃え上がった小さな炎を見て、ナナエが感嘆の声を上げた。 「わあ、きれい……!」  火屋の中で、炎は清らかに蒼く揺らめいている。  フリーデに渡された液体は、ランタンの火を青色に染めるためのものだったのだろう。  エルドレッドも思わず声を上げた。 「蒼い火? 何でこんなことを?」  エルドレッドはまじまじとフリーデの顔を見つめた。  だが腕組みの彼女は、分厚い眼鏡の奥で目を細めるだけ。  笑みなのか、それとも何か気分を害したのか、全く見当も付かない。 「すぐに分かるわよ」  それだけ答えたフリーデが、ルーテルを見上げた。  眼鏡の奥から毅然とした視線を騎士に向け、上から目線で指示を出す。 「ルーテル、隊列と進軍の指示を出して」 「よろしい」
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