第三章 黄色の森

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 ルーテルの指示を受け、ナナエ、フリーデ、それにエルドレッドは所定の配置に立つ。  それを見届けたルーテルが、逆三角形の隊列を組んだ三人の最後尾に付いた。  騎士の青い目は、蟻塚と化した古城を見据えている。 「では進軍を。行ってくれたまえ」  エルドレッド、それにナナエは同時にうなずくと、ゆっくりと歩き出した。    並んで目指す先は、黒々と口を開くあの出入口。  まかり間違えば、あの燃える粘液の直撃を食らうだろう。  微塵の恐怖もためらいもない、といえば嘘になるエルドレッドだったが、彼の足は止まらない。  ナナエもぴったり歩調を合わせてついて来る。  何となく安心すると同時に、言いようのない緊張が全身を覆う。  すぐにエルドレッドは、ついさっき覗き込んだ出入口の前に立った。  身を潜めるようにして盾を翳し、一瞬息を詰めて目をつぶった彼だった。    が、穴の奥はひっそりと静まり返っている。  あの燃える粘液が飛んでくる気配は窺えない。  ……よかった。まずは安心だ。  ふと安堵の息をつき、エルドレッドは隣のナナエに視線を移した。  蒼く燃えるランタンを掲げた彼女の目は、睨むように漆黒の闇を凝視している。  その視線は必要以上に堅く、蒼白の唇も微かに震えているようだ。  魔術師とはいえ、一介の村娘に過ぎないナナエには、これが初めての“冒険”なのに違いない。  ナナエは、きっと怖いのだ。
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