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第四章 ミルメクの城
一
魔術師の少女、ナナエの翳すランタンが、辺りを蒼く照らす。
彼女のすぐ横で、エルドレッドは周囲を見回した。
アリ人間の住処と化した古城の内側は、どうやら玄関ホールだったらしい。だが今は壁も床も、果ては高い天井さえも砂に覆われていて、かつての姿は推し量ることさえできない。
そして、そのほとんど地面と言ってもいいような床には、もぞもぞとうごめく塊が幾つも見える。
人の大人程度の大きさだろうか。
のっぺりぶよぶよとした紡錘形の生物らしく、ランタンの蒼い光が乳白色の表皮を薄気味悪い色に染めている。
「カエンイモムシだわよ」
「触らないように気をつけてくれ」
エルドレッドの背後から、頑小人フリーデと騎士ルーテルの小声が聞こえてきた。
同時に、侵入者の気配を察したのか、カエンイモムシたちが一斉に胴体の先っぽをもたげた。
そこには赤い小さな点と、丸く開いた口が見える。
四人が動きを止めるのと同時に、今度はカエンイモムシたちが、尾端を持ち上げた。
彼らが見ている前で、カエンイモムシたちの尾の先がぼんやりと蒼く光る。
その色は、ナナエが掲げるランタンの炎とよく似ている。
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