第四章 ミルメクの城

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 程なく、カエンイモムシたちは安心したように頭と尾を下げ、再び床の上に身を横たえた。 「ランタンの火を蒼くしたのは、このためだったんですね?」  ナナエが感心しきった口調でつぶやくと、フリーデも小声で返してきた。 「カエンイモムシの発光器に近い色になってると思うわよ。彼らの発光器は、同属を識別する目印になってるから。今はあたしらを同属だと思ってるはずだわよ」 「よし、ではさっさとこの保育室を抜けてしまおう」  声量を抑えたルーテルの指示に従い、エルドレッドはナナエが翳す光を頼りに、部屋の出口を求めて視線を巡らす。  ちょうど左手奥の壁に尖頭アーチが見える。  三十歩ばかり先だろうか。扉はなく、黒々とした穴がぽっかりと口を開いている。  エルドレッドがその尖頭アーチを示そうとしたその時だった。  その穴の中に一つの影が現われた。  発光器と同じ蒼いランタンにぼんやりと照らし出されたのは、あのアリ人間。  誰からともなく、四人はさっとしゃがみこんだ。  うごめく乳白色の巨大蛆虫の間に身を潜めつつ、エルドレッドはアリ人間の行動をじっと観察する。  鉤爪のある手に甕を抱えたアリ人間は、一体のカエンイモムシに歩み寄り、その尾端辺りをちょいちょいと鉤爪で引っかいた。    するとカエンイモムシは、飼い主に擦り寄るような猫を思わせる動きで尾端を持ち上げた。  そこから滴り落ちる黄金色の液体を、アリ人間は甕のような容器に受け止める。
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