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この遊戯室に二人残ったエルドレッドと騎士ルーテル。
人払いをしたルーテルは、まだ一言も発さない。
何かを待つように、両肘を円卓に着いて目を伏せている。
……何だろう? 自分だけを残したルーテルの意図が分からず、エルドレッドも口を開けない。
そうして二、三分。静寂を確かめたルーテルが、ようやく口を開いた。
「さて、これで全て片付いた。残された任務は、もう何もないが……」
騎士が真っ青な瞳をエルドレッドに注ぐ。
「これから君はどこへ向かう? また新たな土地へ向かうのだろう?」
「はい。まだどこへ、とかは決めてないけれど」
エルドレッドの答えを聞いたルーテルは、ふと視線を逸らした。
しかしすぐにエルドレッドに目を戻した騎士が、真摯な面持ちで切り出した。
「……エルドレッド君。君は、騎士になる気はないか?」
「えっ!? 俺が、騎士に?」
思いがけないルーテルの言葉に、エルドレッドは絶句する。
――騎士――
人々の尊敬を一身に集める高嶺の武人。
眩しくも、自分とは縁のない地位の人々。
そうは思いつつ、密かに憧れ、目指してきた騎士の身分に、ルーテルが誘
(いざな)っている。
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