終章

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 椅子の上で身を強張らせるエルドレッドに、ルーテルが言葉を重ねる。 「もちろん、騎士になるのは簡単なことではないよ。もう十年以上も、在野の武人が騎士に叙任された例はない。だが君には、名だたる騎士になれる素質がある」  騎士は懐から取り出した一枚の羊皮紙を、エルドレッドの前に広げて見せた。  紙面には、大きな朱文字で綴られた“推薦状”の文字と、二つの署名が目に飛び込んでくる。 「騎士団総本部への推薦状だよ。これがなければ騎士への第一歩、叙任試験を受けることができない。必要な推薦人二名の署名は、もう確保してある。あとは君が署名を入れるだけだ」 「二名って、誰ですか?」 「一人は私。もう一人はオクシオン卿だよ」 「えっ!?」  またも意表を衝かれ、エルドレッドの声が裏返る。 「あのオクシオン卿も、俺を騎士に……?」 「正直私も驚いたよ。無理を承知でお願いしてみたが、『気が変わる前に署名しよう』と、その場で署名してくれた。彼なりに、何か思うところがあるのだろうな」  温かな息を一つついた騎士だったが、すぐに真摯な眼差しをエルドレッドに注ぐ。
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