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今まで呼ばれたこともない愛称、らしきものを聞かされて、エルドレッドは目を白黒させる。
拳の下がったフリーデが、赤い顔をあらぬ方へと向けた。
「そ、そうよ。別にそう呼んだっていいでしょ? あたしだけは、あんたをそう呼びたいんだから」
「あ? ああ。別に構わないけど……」
何となく妙な気分を覚えつつも、気を取り直したエルドレッドは、フリーデを正視した。
「トレアノの街、仕事を探しにきっと寄るよ」
エルドレッドも拳を握る。
もう一度フリーデが構えた小さな拳に、自分の拳をこつんとかち合わせる。
「待ってるわよ。じゃあね、エッド」
大きな丸眼鏡を額に上げて、裸の瞳でエルドレッドを見つめたフリーデだった。
が、すぐにくるりとバックパックに隠れた背中を向けると、フリーデは彼の部屋から立ち去った。
独り部屋に残されたエルドレッドは、小さなため息をつく。
甘酸っぱくもほろ苦い、不思議な感覚に囚われたまま、手早く荷物をまとめた彼は、部屋を出た。
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