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エルドレッドが薄暗い廊下へ踏み出すのと同時に、聞こえたのは高く澄んだ少女の声。
「エルドレッドさんっ!」
ハッと向き直ると、廊下にほっそりした人影が佇んでいる。
水色のマントに身を包んだ少女、ナナエだ。
彼女はエルドレッドの姿を見るなり、ててっと駆け寄ってきた。
そして彼の前に立ったナナエは、勢いよく頭を下げる。
「本当に、本当にありがとうございました! わたしと義兄さんが一緒に帰れるのも、エルドレッドさんのおかげですっ」
桜色に染まった頬、尊敬と思慕に煌めくヘーゼルの瞳が、暗がりに眩しい。
所在なく髪をくしゃくしゃやりながら、エルドレッドは首を横に振る。
「あ、いや、それはルーテルさんの力だよ。俺、ナナエの義兄さんにケガさせて、本当にごめん」
うなだれたエルドレッドの体が、正面からそっと抱きしめられた。
ナナエの柔らかな髪が頬を撫でる。
どぎまぎして半ば詰まった彼の耳に、ナナエのすまなさそうな声が届く。
「わたしこそ、ごめんなさい。うそつき、なんて言っちゃって」
「そんなの、もう気にしてないよ」
穏やかに答えた彼の心が激しく揺れる。
ナナエの華奢な背中に回しかけた腕だったが、その動きは途中で止まった。
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