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炉端に立った騎士は、草原の周囲に屹立する巨木の一本を指差した。
その木の脇には、さらに山奥へと続く木立のトンネルが口を開いている。
「今夜は我々もここで休もう。ここまで歩き通しで、君も疲れたろう? エルドレッド君」
騎士ルーテルが荷物を草の上に下ろした。
気遣わしげな表情を見せた騎士に、エルドレッドは強気な顔を作って首を横に振る。
「平気です。ルーテルさんこそ、騎士はいつも馬に乗ってると思うんだけど、大丈夫ですか?」
「なかなか言うね、エルドレッド君」
一言返したルーテルだったが、透明な笑い声とともに、何度も軽くうなずく。
「確かに、乗馬は騎士の代表的な特権の一つだからね。でも実は私も、徒歩の方が慣れているんだよ。前の上官に鍛えられていてね。あの人は馬に乗らない人だったからな」
遠く澄んだため息を一つ入れてから、騎士が告げる。
「まずは火を起こそう。それから食事だ」
「あ、はい」
エルドレッドも背中のリュックサックと盾を下ろした。
と、その時、彼の耳にか細い悲鳴のような音が突き刺さった。
壊れた笛を吹き鳴らす、もの悲しく恨めしげな高い音。
背筋に怖気が走る、不快な音だ。
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