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彼は思わずルーテルに視線を向けた。
が、当の騎士に動じる様子は全くない。
モーニングスターを地面に投げ出し、外套を脱ぎながら騎士はこともなげな視線を返してくる。
「ああ、この音かい? これは悲鳴のようだが、風音なんだよ。斥候からも聞いた」
「風音? 気持ち悪い風音ですね」
眉根を寄せたエルドレッドに、ルーテルは革鎧のバンドを外しながら、苦笑交じりにうなずく。
「そうだね。ここからそう遠くない山中に、遥か太古の巨木が林立したまま石化している森があるそうだよ。石になった木々の間を吹き渡る風が、悲鳴のように聞こえるらしい。この時節の風物詩だそうだ。この地方の住民は不吉がって、誰もその『石化の森』には寄り付かないそうだけどね」
確かに気色悪い音だが、正体が分かってしまえば、何ということはない。
すぐにエルドレッドも盾と鎧を外し、木立の根元に散らばる小枝を集めにかかった。
完全に夜が草原を包む前に、エルドレッドは炉の中に小枝を積み上げた。
彼が火打石で火を起こす傍ら、ルーテルがバッグの中から大きな紙包みを取り出した。
薄茶色の紙包みは、細い紐できっちりと縛ってある。
「戦士は体が元手だからね。明日は、大いに君に活躍してもらわなければならない」
悪戯っぽく言いながら、ルーテルは紙包みを解いた。
「今夜の夕食は、私がご馳走するよ。狩りで調達するのも、野営の醍醐味だとは思うけどね」
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