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第二章 魔術師ナナエ
一
エルドレッドは、騎士ルーテルとともに山間の街道を北東へ向け、ひたすらに歩く。
土がむき出しの道の左右には、緑の葉を茂らせる木々と、人の手が入った小さな畑が点在する。
時おりすれ違う人々もメノーテの村人だろうか。
素朴な身なりに、鋸や農具を手にしている。
二人が歩みを進めるにつれ、街道の様子は刻々と変化を見せる。
周囲の木々は次第に太くなり、生い茂る梢の枝が天蓋のように彼らの頭上を覆う。
薄い木漏れ日が、まるで細いトンネルのような林道の中に、幾筋も差し込んでくる。
鳥のさえずりも辺りに響き、牧歌的な時間が流れてゆく。
すでに畑は姿を消している。
木こりが斧を打つ音もとうに聞こえなくなり、人里からはかなり遠退いたに違いない。
お互いにあまり言葉を交わすことなく、何時間も歩き続けたエルドレッドとルーテルだった。
やがてエルドレッドは気が付いた。
梢からの木漏れ日が、透明な金色から藍色が混じった茜色に変わっていたことに。
どうやら日没が近いようだ。
ルーテルが歩調を速めた。
エルドレッドも、速足で騎士を追う。
そして数分。
巨木のトンネルは不意に途切れ、ルーテルが足を止めた。
林道の真ん中に立ったまま、騎士がバッグから地図とコンパスを取り出す。
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