ペンギンと僕

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時計を見ると13時を少し過ぎていた、その日は彼女へのプレゼントを選びに朝から街に出て何軒もお店を見て廻っている最中だ。 それにしても暑い…太陽は容赦無く照らしてきていて日差しが痛い程だ、朝から張り切って念入りにセットしたか髪は汗で無惨にもへたって額に張り付き、シャツもスラックスも肌に張り付いて気持ちが悪い。軽い食事と冷たいコーヒーを求めて僕は近くに有るコーヒーチェーン店に入った。 クーラーの効いた店内はひんやりと涼しく気持ちが良い、まるでさっきまでの外の暑さが嘘のようだ。 僕はカウンターで注文した商品を手に席に着くとスマホでネットニュースを見ながらサンドイッチをほおばりアイスコーヒーを飲んだ、遠い国の内戦の状況を伝えるページを開くと瓦礫の中で痩せた身体に汚れた服を纏った幼い少女が更に幼い少女を守る様に肩を抱き支え合うように立っている写真が載っていた。僕は次のニュースを開く、そこにはこの猛暑の影響で動物園の動物達がすっかり食欲を無くしてしまっている事を伝えていた。他にも何件かニュースをチェックした。そうこうしているとクーラーですっかり僕の体は冷えてきってしまい寒い、時計を見ると店に入ってから30分近く過ぎていた、暑い外の考えるとゾッとしたが僕は店を出てもう1軒覗こうと思っていた店へ向かった。 電車を乗り継ぎ最寄り駅で改札を出た時には辺りは暗くなりかけていた、僕は少し遠回りして海の近くを通る道を通って家まで帰る事にした。僕の住む町は海に近い、そして僕は夕暮れ時の海を見るのが好きだ。 砂浜に降りていき波打ち際ギリギリまで近付いた、潮の香りと波の音が心地よい、夕日のオレンジ色に波が染まる。 ぼんやりと眺めていると大きな魚が波打ち際まで泳いで来ている、僕は珍い事も有るもんだと思って興味深く見ていると、その黒い影が立ち上がった僕は恐怖と驚きで大きな声を出しながら一歩後ろに跳び退いた、その時に身体のバランスを崩して後ろに倒れて尻餅を着いてしまった。 「いやね、驚かすつもりなんて無かったんですよ。すみません」 海から立ち上がった黒い影は喋った、そしてその姿はペンギンだ。喋るペンギン…こんな事が有るはずが無い、何かのドッキリで僕のこの醜態はコッソリ撮影されていてネットで公開されるのかもしれない、そんなことが頭をよぎった。僕はすぐにでも立ち上がってこの場を去りたいのに、バタバタと足を動かし宙を蹴るばかりで思うように立ち上がれない。 「手をお貸ししましょうか?」 目の前のペンギンはまた喋った、僕はアタフタするばかりで上手く喋る事も出来ない、何て情けない姿なんだと涙が出そうになる。 「驚きますよね…危害を加えよぅって訳じゃ無いんで、安心して下さい。」 一瞬ペンギンが申し訳無さそうな表情をしたように見えた。 少しずつ僕は平常心を取り戻し、何とかペンギンとある程度の会話をする事が出来るようになった、嘘みたいな話だがどうやらこのペンギンはロボットでもぬいぐるみでもなく、本物の生きている僕の知っている、あの動物園やテレビでお馴染みのひ人間の言葉なんて喋らないペンギンと同じ生き物らしい。 「しかし、ここはちょっと暑過ぎやしませんか」 おもむろに話し出した、ペンギンは明らかにグッタリしているように見えた、僕は動物園か警察に電話するべきなんだろうな…多分、と何が正解か分からない軽くパニック状態でそのペンギンを家に連れて帰った、クーラーを低い温度で入れて冷凍庫に有るありったけの氷と、ついつい溜め込んでいたおまけの保冷剤をオケに入れるとオケをペンギン方に寄せた。 「すみませんね、いやぁ~しかしひんやりして気持ちが良いです、生き返った気分ですよ、ありがとうございます」 ペンギンは桶の中から律儀に礼を口にし、頭を下げた。 もしかしたら僕は疲れているのかもしれない、もう何も考えずにとにかく寝てしまう事にする。朝には僕の家にペンギンは居ない、ただの笑い話になってるはずだ。 目覚まし時計の大きな音で僕は目覚めた、いつもなら後5分だけ…と二度寝する所だがのろのろと起き上がり昨日ペンギンの為に用意したオケの置いてある部屋に行きソッと戸を開けて中を覗いた、クーラーと氷で部屋は充分に冷えている、真ん中に桶は置かれているそしてその中にペンギンはやっぱりいた。 僕は部屋に入って行った。 「おはようございます」 ペンギンが言う、 「おはようございます…」僕も一応挨拶を返す。 そこからは会話は無く、僕のつけた朝のテレビの音だけが部屋に響いた。 こんな異常事態とはいえ仕事は休め無い、第一に会社に何て説明して良いのかも分からない。僕は大きなため息を着いてから立ち上がると洗面を済まし着替え会社へ向かう準備をした。 「ところで、君は夕食は魚で良いかな?」 僕はペンギンに聞きペンギンが「どうぞお気遣い無く」と返事をしたのを聞き家を出て駅に向かった。 その日は仕事には身が入らず、凡ミスを何度かやらかしてしまった。定時になるとすぐに帰る用意をして早々に会社を後にした。 帰りにスーパーに寄って自分用のお弁当とペンギン用に生のイワシを数匹買って帰った。 玄関を開けて中に入るとやはり、そこにはペンギンが居る。 僕はまた大きなため息をついた。 イワシをあげるとペンギンは「そんな良いのに~すみませんね、しかし助かります。何せ腹ペコで」 と言うとあっと言う間に食べてしまい、満足そうに目を細めたように見え た。 「今日ですね、実は図書館とやらに行って来たんですよ。」 ペンギンはあたかも何でも無い事かの様に話したが図書館では騒ぎにならなかったんだろうか…聞きたいけれど恐ろしくて僕には聞けない。 「いやぁ~良いところですね図書館。無料で書物を読ませてくれて何やら手続きをすれば貸出までしてくれるって言うじゃないですか。」 「そうだね…」僕にはそう相槌を打つだけで精一杯だ、僕の動揺をよそにペンギンはまた饒舌に喋り出す。 「いえねぇ~ただ暑いのにはちょっと閉口ですがね…まぁ人様には適温なんでしょうけどね。しかし、道中のアスファルトの暑さには参りました…さすがに引き返そうって何度も思ったんですが僕にはやらないといけないことが有ったもんでね進み続けましたよエェ…」 ペンギンは腕を組み目を閉じた。 「そしたら、途中で母親とその小さな子供に遭遇しましてね、子供が僕の足がアスファルトで焼けてしまうんじゃないかって、可哀想だって母親に言いましてね、その母親が鞄から2枚の小さなタオルを取り出して僕の足に巻いてくれたんですよ、いやぁ~ありがたいじゃないですか、感動しました。」 僕はどうして良いか分からず黙って頷いた。 「最近、暑いじゃないですか…異常ですよね ?」 「そうだね、異常気象ってやつだね」僕もこの暑さには参ってしまう。 「僕たちの住んでる所も氷がどんどん溶けちゃうしでイロイロとたいへんでね、僕達だけじゃ無いよ…あの恐ろしい白い大きなクマだって大分参ってるよ…いくら恐ろしい奴だって言ってもやっぱり気の毒なもんさ、それで僕は新しい住みかを探そうと思って出てきたんだ、氷でできた寒い場所を見つけたら仲間を呼んでやろうと思ってさ…まぁ一応白クマにもアザラシにも他の皆にも教えてやるつもりなんだけどね」 僕は冷凍庫から新しい氷を出すと桶に入れた。ペンギンは軽く頭を下げた。 「みんな、ここ最近の変化をとても不安に思って怯えているんだ。大丈夫だって安心させてやりたいよね…良い場所がすぐに見つかると思ってた、泳いでも泳いでも氷りの島なんて無くて…ここの海辺に辿り着いて、あなたに助けて頂いて図書館にまで行ってみた、そこで見た書物には地球全体が暑くなってるって書いて有るしさ…やっぱり良い場所なんて無いのかな…どうしたら良いか分かんなくなってさ」 ペンギンはオケに入っている氷をいとおしそうに手で撫でた、ペンギンに表情が有るのかは僕には分からないそれでも僕には今にも泣き出しそうな顔をしているように見えた。 「昔は恐竜っていう大きな生き物がいたって言うじゃない、図書館の重い大きな書物に絵が書いて有ったよ、何だか俺達にどこかしら似てるような気がするのも何匹かいだぜ、いやぁ強そうだったな…あれだったら狂暴なシャチにでも勝てそうだ、なぁそう思うだろ?」 ペンギンの声に元気が戻って僕はホッとする。 「あぁ恐竜だったらシャチも勝てそうだ」僕は言う 「でもさ、そんな強い恐竜も地球が寒くなって絶滅したって書いてあったぜ。地球が決めた運命ってやつなんだとしたら恐竜みたいに俺たちもそれに従うしか無いのかもな…」 全てとは言わないが、この環境の変化に人間が大きく関与している事は図書館では分からなかったんだろうかと僕は思うと共に、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。 「何かを責めたいんじゃ無いんだ、僕達は今の状況を受け入れて今を精一杯生き抜くしか出来ないからね…だだ今を生き抜くだけさ」 僕は言葉が詰まって出ない… 「そうは覚悟を決めててもよ、俺達の子供たちやその子供たちをずっと安心して、出来れば幸せになって欲しいって思うんだよね。」 次の日、朝起きて部屋にペンギンは居なくなっていて家中を探して家の周りも探したがペンギンは居なくなって居た、机の上にキラキラと虹色に光るとてもキレイな貝殻が1個置いて有った、それは僕の宝物になった。
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