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女帝
洋子は頭が真っ白になってふらふらと自宅に帰った。
一階のリビングで朝10時のTVをつけると、いじめ特集が組まれていた。
いつもの内容と違って、人気タレントが口々に叫んでいる。
「親は何をやってるんだ」
都合の悪いTV。
幸助に見せたらお終いだ。
いつもの教師が悪役のドキュメントだったら、英雄時代劇みたいで面白かったのに。
洋子はTVを消した。
振り返ると、背後に幸助が立っていた。
「何でこの時間に家にいるんだ」
幸助は黙っていた。
「いじめは解決したんでしょうね」
「まだ」
洋子は幸助をバットで殴った。
「あんたが悪いからだ」
その時、爆音がした。
洋子はとっさに頭を抱えて身体を低くする。
自宅が倒壊しないのを確認してから、目を上げた。
頭上では青空と入道雲が広がっており、一階と二階の天井がぶち抜きで無くなっていた。
洋子が気が付くと部屋の中に見ない顔。
着物姿の人物が幸助を抱えて、何かに腰かけている。
それは椅子やソファではなかった。
桜の木の幹が曲がって育って、腰かけのようになったものだ。
幹は太いが若い木らしく、高さはなかった。
その人物は純白のしぶきーースパッタリングの入った群青の着物に、ターコイズブルーの巨大な前帯を花魁のように締めていた。
銀のぽっくりをはき、ローズピンクの装飾品を全身にちりばめている。
しかし雲海の竜のようなしなやかな容姿の男性で、
現代のユニセックスな髪形に、遊び心のようなつけ毛と装飾品をあしらっている。
人間離れした色香を放ち、これだけ女物の衣装につつまれながら、紅はひいていない。
逆立ちしても女装には見えず、それでいて、彼は雌のあやかしか女帝のように微笑した。
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